ドライヤー

ガサツな私と几帳面な君。


周りの友達からは驚かれ、付き合ってるのが不思議だと言う。

確かに真反対な私たちだけど、そんなこんなでも

上手くやってけると思ってる。



***



同棲し始めてすぐの頃。

私はお風呂上がり何もせずに、テレビの置くにいるお笑い芸人の転けるざまを見て笑ってた。

頭上から君の声がした。


「髪を乾かさないと、風邪をひくぞ」

「別にショートだから、このくらいすぐに乾くよ」

「いいから来い」


仕方なく手招きされたところに行くと、彼がドライヤーを片手にソファに招いた。

私は彼の前に座った。

ドライヤーの音と共に温かい風が来る。


ドライヤーの音のせいで、きっと今はすごい面白いシーンの筈なのに1つも声が聞こえないからちっとも面白くない。

ただ、早くドライヤー終われ。終われ。なんて考えながら何も聞こえないテレビを眺めていた。



***



それから数日経った日。

毎日のように無理矢理、ドライヤーで髪を乾かされるため、遂に自らドライヤーを持って彼の元に向かうようになった。


いつも無言で渡せば髪を乾かしてくれる。

乾き残しが無いように丁寧に仕上げてくれる。

痛くならないように優しい手つきで触ってくれる。

その一つ一つの気遣いが、鬱陶しいと感じていた時間が、私にとっていつしか愛おしいものに変わってた。



***



数ヶ月後、この家には住人が一人だけになった。

彼がこの家を出ていってから、まだドライヤーを使ってない。

君を思い出してしまいそうで怖かったから。


久しぶりにクローゼットからドライヤーを出した。

この家に来て、初めて自分で乾かしてみた。

どうしても後ろ髪が乾かすのが大変で、腕が痛くなったからそのまま諦めてしまった。



君がいた頃はドライヤーを使ってる時だけ、周りの音が聞こえずに2人だけの世界が広がってた。

だけど今は君がいない。


君がいないだけなのに、この世界があまりにも寂しすぎて耐えきれなかった。

テレビの向こうは色んな人が笑っていたけど私はただ一人、ソファの上で泣き続けた。

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