第4話 拠点という名のアジト
追いかけてくるすべてを張り切ってから小一時間。トレジャーさんとの荒野の旅も終わりに差し掛かっていた。
「もう少し進めば草原、その次はお待ちかねの海だぞー」
手でひさしを作って遠くを見ると荒野の切れ目、草原が広がって見える。そしておもむろに小舟の淵から下を覗き込む。この船の周りだけ地面が液状化、というか色のついた水になっており、今はこの船の周りだけ茶色の水になっている。草原に差し掛かると、やはり地面は黄緑色の水になっている。
「おぉー!意味わかんないけどすげー!」
「すごいだろ!あたしたちデミゴッドは生物だったころはキミたちと同じような存在が、この私の見た目のデータを使って活動してたんだけど、それぞれ設定があったんだな。おとなしいものからぶっ飛んだものまでいろいろね。で、長いことアップデートを重ねることで今はその当時の設定が現実につかえてるってわけな!」
「設定が現実に、、」
「そう!さっきのやつらでいうと、バーニングが炎をだしたり、マッスルがとんでもない剛力だったりな!あっ、グレートはもともとあんなんだぞ?あいつリアル英雄だから。で、あたしのは『どんなところでも進める船に乗っている』ってやつな!」
「すっげー」
ゲームとはいえ、太古の先人たちの妄想が具現化しているわけかぁ。それってなんか、すごくロマンを感じるなぁ。感慨深く頷いていたらトレジャーさんが振り向いて問いかけてくる。
「そういえばキミ、名前は?あたしは名乗ったのに聞いてなかったよね?」
「あっ、どうなんだろ?キャラメイクもなにもなかったからなー」
ステータス画面を確認すると、『ディズ』とある。あっ本名だこれ。
「あー本名で登録されてるっスね、ここって本名プレイ推奨なんスか?ちなみにディズです」
「ディズ君ねぇ?本名プレイしてる人もいるけど好きな名前に変えられるよ。ちなみに最初の一回は無料、2回目からは課金が必要。でもまぁ1500クレジットだからハードルは低めかな?」
「初回のみ無料と、ううーん」
トレジャーさんはハードル低めというが、僕は無駄使いには抵抗があるほうなんだよなぁ。どんな名前にしようかなぁ?
「なんかいつも使ってる名前とかないわけ?」
「あるにはあるんですよ。でもなぁ、見た目が現実と同じなんでなんか違和感があるんス。かと言って本名プレイはなぁ。オンラインだしなぁ」
腕を組んで悩んでいると上機嫌なトレジャーさんが嬉しそうに僕を指差して言う。
「遠回しな名付けリクエストありがとうございまぁす♪そうだなー、トレジャーハート、キミは今から『トレジャーハート』だ!」
「えええしてないしてない!名付けリクエストとかしてないっスよ!?」
まさか、ステータスに反映とかされてないよな!?慌ててステータス画面を確認すると名前の欄がしっかり『トレジャーハート』になっている。
「なってるううう!名前変わっちゃってるぅ!うっそだろコレ変更するのに課金、、えぇ、、」
「あぁぁん?なにか不満でもあるのか?」
「あるにきまってるでしょお!せめてなんかこうもうちょいカッコいいやつにしてくださいよぉ!」
ハートはないだろぉ!?
「むっ、トレジャーさん直々に『トレジャー』をつけたの初めてなんだが?トレジャー・パイレーツ公認のトレジャーなんだが?あとはキミは屈強なのにイケメン好きとか心が乙女だからハート、我ながらなかなかいい名前だと思うんだが?」
「初めて、公認、そう言われるとなんだか悪くないような気もしてきたっスけど、なんかこう、ジャックとかキースとかもっとかっこいい名前がよかったっス」
ため息をついて落ち込んでいるとトレジャーさんもため息をついて赤い光に包まれてイケメンの姿見になる。そして僕のアゴをクイっとすると優しく言い聞かせるような甘い口調で言う。
「悪かったよ、でもまぁパッと出てきたけどちゃんと考えたんだ、キミは見た目もオレの海賊団にピッタリだから『トレジャー』、オレがハートを奪ったから『ハート』。まぁなんだ、軽々しく他所にいけないように首輪をつけたかったんだ、許せ」
「ハイ、、許します♡」
さっきと言ってることが微妙に違う!でもかっこいいよくて許さずにはいられない。
まぁたしかに?この装備というかコスチュームも我ながら似合っていると思うし、トレジャー様がどうしても手元に置いておきたいと思ってもしょうがないよな!両手を組んで目をハートにしてポーっとしているとトレジャーさんが再度赤い光に包まれて元の姿に戻ってしまった。あぁ、終わっちゃった。
「おーし、キミも納得したところで、もうすぐ海に出るぞ!海に出たらスピードアップするしすぐにアジト、拠点につくからな!」
言われて進行方向を見る。草原の切れ目に崖があり、その先には一面の海が広がっている。そそう崖があり、、崖ぇ!?
「船長!?崖!崖ッス!!このまま進んだら落ちちゃうっスよぉ!!」
「ハハッ、崖くらいなんだwそんな屈強な図体しといてガタガタぬかすんじゃあない!」
「いやいやいやいやいや!何言ってんの!?崖だよ!?」
「くどいぞー、そら!出航!」
「イヤァァア!!!」
僕たちを乗せた小舟はそのままの勢いで崖から海へと落下していく。イヤァァア!ヒュンヒュンするぅ!
恐怖のあまり波止場でかっこつけて片足を船を固定する突起に乗せて海を指差す船乗りのポーズでいるトレジャーさんに必死にしがみつく。
「なんだキミぃ、お姉さんの豊満なボディーに興味津々かぁ?」
「何言ってるのかわかんないっス!そういうのはイケメンの時にお願いしまーす!」
「だーめ、アレ疲れるから」
「いけずうぅぅ、あああ回転してる!頭から!頭から落ちちゃうぅ!」
落下しながら空中で船が半回転している!頭は下になり、浮遊感がヤバいがしがみついているトレジャーさんはしっかりと船に両足がついている。どうなってんの!?
「ふふっ、かわいいやつwまぁ大船に乗ったつもりでしがみついているがいい!見てな!」
「これは小舟っしゅ、いったぁ」
トレジャーさんは後ろ足を小舟から離すと勢いよく小舟に振り下ろす。ブーツの踵が小舟に当たりガツンと音を響かせると小舟が半回転して僕は舌を噛んでしまう。そして船底から着水。
ざっぱーん!
衝撃でしがみついていた手を離してしまい小舟の後ろの方に飛ばされて仰向けに倒れる。
あぁ、カモメが鳴いてる。生きてる、いやコレゲームだったわ。リアルすぎてゲームしてる感覚ないわー。
「おーい、スピードだすから起き上がりなー」
ドドドドドドと言う音を聞いてムクリと起き上がる。トレジャーさんと目が合うと、トレジャーさんはニッと笑って前に向き直る。
「出航!!」
バシャシャシャシャシャ!!!
「ひぃぃいい!」
ものすごい勢いで小舟が走り出す!モーターバイクもかくやという速度に悲鳴をあげるが、目前に広がる大海原とあっという間に流れる景色に全てがどうでもよくなるような気がして声を上げる。
「ヒャッホオオオオウ!きーもちいいいーーー!」
「いやいやいや、出航!って言ったらヨーソローだろw」
「ヨーーーソローーーー!」
「あっはっはっはっは」
海にこだわりなんてなかったけど、これはやみつきになりそう!輝くような笑顔をしているトレジャーさんと大海原を見て、そんなことを思った。
〜〜〜
バシャシャシャ、、パシャン
「ついたぞー」
「ほえっ」
海の気持ちよさにトリップしていたら拠点にたどり着いたようだ。なんだろうこれ、島?島の所々に木でできた長屋のようなものがあり、てっぺんにはなんか木でできたタルのような形の家ようなものがある。
トレジャーさんはここで初めて小舟を降りると僕にも降りるよう促す。小舟から降りて砂浜に上陸すると、ずいぶん久しぶりに感じる地面の感触に喜びと安心を感じる。
僕が小舟から降りたのを確認すると、トレジャーさんは小舟に手をかざす。すると小舟が変形していく。みるみるうちにタルのような形になり、持ち手がついてハンマーのような見た目になった。
「そろそろかな」
「そろそろ?えっ、なんスか?」
ちょうど会話を終えた時だった。
ドドドドドドと地鳴りのような地響きのような音が聞こえる。それが足音だと気づくのに数瞬かかった。続いてわーわーと野太い声が聞こえてくる。
「「「せーーーんちょーーーー」」」
「きたな!ハートくん、船長の後ろに」
「えっ?えっ?」
戸惑いつつもトレジャーさんの後ろに回りしゃがみ込む。
トレジャーさんの後ろからひょっこり顔をだすと拠点のそこかしこから僕と同じコスチュームの人たちが凄い勢いで走り寄ってくるのが見える。しかも老いも若きも男女も関係なくほとんど全員叫びながら全力で走っている!あれってたぶん同じ団の先輩達だよな?服装的に。
トレジャーさんは右肩にハンマーを担ぎ半身に構えると左足を前にだし腰を落としてぐっと力をためる。
「キミたち!会いたかったぞー!オラァ!!」
そして勢いよくハンマーを横に振るう。するとハンマーを振った残像から大量の水が発生し波となって走り寄る先輩たちを押し流して行く。
「「「あああ〜!これこれ〜!!おかえりなさーい!」」」
流れていく先輩はみんな気持ちよさそうな顔で仰向けで流されていく。慣れてる!あっあの人背泳ぎしてる!?
「キミたちぃ?今日は新人さんも連れてきたんだからしゃんとしなしゃんと!はい、起立!」
「「「ハイッ!!、、新人?」」」
トレジャーさんがよく通る声で呼びかけると全員がピシッとした動作でその場で起立する。そして揃って疑問の声をあげトレジャーさんを見る。
「へ、へへっ。どうも、はじめましてトレジャーハートでふ」
噛んだ。右手で頭をかきながらのそのそ立ち上がりトレジャーさんの後ろから左へと出る。
「キミは船長の右腕になるんだから右側に立つように」
「あっ、ハイッ!」
慌てて右側へ。えっ視線やばぁ!そりゃそうか、ポッと出の新人が名前にトレジャーつけて右腕なんて紹介されたら悪目立ちしちゃうよな。そんなことを思っていたら先輩たちが沸き立つ。
「すげぇ!なんて体してやがる!!」
「コスチューム似合いすぎだろ」
「デミゴッドがシナジーを感じて直々に名付けないと付けられない名前の前部分を、、希望の星だ!絶対に逃さないぞ!!」
「ウホッいい男!」
めちゃくちゃ好意的だ!あとなんか、尻に視線を感じる!!
「よかったら案内してやってくれー。あたしはちょっと寝る」
「「「はーい」」」
そう言い残してトレジャーさんは足元に小舟をだすと、頂上にあるタルの形の家まで駆け上がり跳躍。空中で小舟を消してすぽっと入ってしまった。僕はどうするか、ここまでずっとトレジャーさんと一緒だったし。
「どうしよっかな」
「おう!オレたちが案内するぜ!」
1人じゃなかった!近くにいた先輩が案内を買って出てくれて、ついてまわることに。
「オレはジェフ!ハートでいいか?」
「あっ、はい。ハートで」
「よし!まずはアレだ。あのでかいのが食料庫」
ジェフさんが指差す方を見る。ちょっと、いやそこそこボロい傾斜のついた建築物が見える。
「見た目はこんなだがこの中に幌を貼った小屋が入っていてな!なかなか丈夫なんだ」
「へえー!」
中に入るとひんやりと冷たい。なるほど、側面は換気、上には幌を貼って雨対策をしつつさらにその周りを囲っているのか。これは丈夫そうだ。
「次はちょっと登るぞ」
ジェフさんとともにえっちらおっちら島の山部分を登っていく。
「あれが
うんうん、物見櫓だ。木でできていてそこそこボロい。
「あれが大砲!」
そのすぐ近くに大砲が設置されている。台車に乗った移動式のものもある。
「以上!」
「以上!?えっ僕らの居住スペースはないんですか?」
「いや、オレらはログアウトするし」
なるほどなぁ。このゆるめの雰囲気嫌いじゃないぞ。でもくつろぎスペースはほしいな。
「適当にその辺伐採してくつろぎスペース作っちゃってもいいですか?」
「いいぞ!好きに伐採していいし櫓の適当なとこに武器として置いてある斧とかハンマーとか使ってもいいぞ」
「あざ〜っす」
さっそくその辺に置いてある斧とハンマーを1つずつインベントリに放り込む。そして山のビュースポットをさがしてウロウロ。ジェフさんもヒマだからついて行くとのことで一緒だ。
なんかいい感じに海が見下ろせる場所を発見。まとまって数本生えたヤシの木の周りの木を伐採し、雑に木の板を作っていく。板にならなさそうな木材を先っぽが尖るように斧で加工していく。先を尖らせた木材を尖った方を下にしてヤシの木の周りにハンマーで地面から膝くらいの高さまで打ち込んでいき、その上に木の板を並べる。そして並べた木の板の外側と内側(ヤシの木側)に先を尖らせた木材を木の板より高めに打ち込む。最後に全体的にハンマーでトントン叩いて高さを微調整したら寝そべりくつろぎスペースの完成だ!
腰に手を当て満足感を味わっていると、ジェフさんがおもむろに寝そべる。そして仰向けになってヤシの木を見上げたり腕を枕に横を向いて海を眺めたりすると僕の方を向いて親指を立てた拳を掲げる。good!
「なかなかいいじゃねえか!お前も寝そべってみろよ!」
「うぇ?うっス。まぁコレ僕が作ったンスけどね?」
僕もさっそく寝そべる。ヤシの木がいい感じに日差しを抑えてくれて、チラチラとみえる木漏れ日と海風が心地よい。
「先輩、トレジャーさんが寝てる間って普段何してるんすかー?」
「あー、おのおの好きなことしてるなー。ここで過ごしてもよし、ログアウトしてもよし、ほかのデミゴッドの推し活してもよしだぁ。オレは、このままお昼寝かなぁ」
「なるほどー」
何しててもいいなら僕もお昼寝しようかなぁ。気持ちいいし。スヤァ。
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