epilogue:樋口彩音
「昔、一緒に駆け落ちしようって言ってくれた人はいたのよ」
化粧室の鏡の前で、唇に紅を塗りながら、女は艶っぽく微笑む。
「へぇ~。ステキですねぇ。それで、どうしたんですか?」
好奇心に瞳を輝かせた、もう一人の女は興味津々と言った顔で女に続きを促した。
「…逃げちゃった」
「へ?????」
「逃げちゃったの。約束の場所に、行かなかった」
「どうしてです?その人のこと、好きじゃなかったんですか?」
唇を尖らせる女と、困ったように微笑む女。
「そんなことないわよ。大好きだった。一緒なら怖いものも何もないくらい」
「それだったら、どうして…」
「んー…そうね…」
女は言葉を選ぶように少しだけ間を空けてから、言葉を続ける。
「私を脅かす怖いものから"逃げ出す"よりも欲しいものが出来ちゃったから?」
「なんです?それ?」
全くわけが分からないという顔をする女に向かって、その女は意味深に笑った。
「あの人の、愛する人の 一生残る傷になりたかった」
夜の公園で秘密のキスをしよう 夜摘 @kokiti-desuyo
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