二対一

「ウソだろ…?記憶違い…なわけないぞ」


「あの…宇津保くん疲れてるんじゃない…?」


「そ、そうだね。昨日からちょっと連れまわしちゃったからさとくん疲れたのかも」


 二人は慰めるように言うが、聰は納得が出来なかった。しかし、二人の話が一致している以上、自分の方が間違っているということなのかもしれないと気にさせられる。あか里はそんな聰の様子を見て、話題を変えることにした。


「ねぇねぇ、未歩は地元に残ってる他の同級生って知ってる?」


「他の?どうだったかな?アルバム見して」


「はい、どうぞ」


「えーっと、…うん、やっぱりあんまりいないかも。私が知ってるのは、天野さん、安西さん、岩崎くんに、清水くんに、津山さん、山本くん…辺りかな」


「6 人かー。結構少ないんだね。ちなみに、綿谷くんは今どうしてるのかな?」


「そっちは全然。噂でも聞いたことないなぁ」


「そっか、ありがとー」


「なに?会いに行くの?」


「うん、せっかくだから皆にも会ってみたいなって」


「ふーん、良いんじゃない?今度どうだったか聞かせてよ」


「オッケー!楽しみにしてて!」


 話が一通り済んだが、聰はさっきのことをまだ考え込んでいた。本当に記憶違いなのだろうか?あか里はそんな聰の様子を知ってか知らずか、


「さて、そろそろ帰ろうかな?」


と、切り出した。


「そっか。来てくれてありがとうね」


「いえいえ〜、会計お願い」


「はいはーい」


 そういうと未歩はちゃっちゃとレジを操作する。昔からこの喫茶店の手伝いをしていたのだろう。あか里曰く、本業はデザイナーだそうだが、なかなかどうして手慣れたものだ。


「はい、お釣り。暇過ぎるからまた来てよ」


「あはは、わかったー」


「宇津保くんもね。何があったかわかんないけど、元気出しなよ?」


「…あぁ、ありがとう。ビーフシチュー美味かったよ。また来るわ」


 二人は手を振って外に出てきた。時間は14時過ぎといったところだが、聰は何だかどっと疲れてしまっていた。どうしようかと悩んでいたら


「どうする?今日はもう帰る?」


と、あか里が気を遣ってくれた。珍しいこともあるものだと思ったが、今日ばかりは有難くその厚意に甘えさせて貰おうと思った。

 疲れたというのもそうだが、単純に記憶を整理したい気がする。家に帰れば自分の卒業アルバムもあるだろうから、誰にも邪魔されずゆっくりと確認をしたかった。


「うーん、そうさせて貰うかなぁ」


「じゃ、同級生の家はまた今度行こ」


「あ、俺も行くのか?」


「当たり前じゃん。だって、いやしツアーだよ。お客さんがいないと始まんないじゃん」


「俺、客だったのか…」


「ほらほら、じゃあ帰りますよ、お客さん」






 帰りの車中で聰はどうしても気になったので、あか里に恐る恐る確認をしてみる。


「あのさ、綿谷のことだけど…」


「うん、何?男の子だったでしょ?」


 改めて聞いても信じられないが、あか里と未歩の二人が証言しているので男なのは間違いないのだろう。なので、別の切り口の話をしてみることにした。


「あぁまぁ、それはわかったんだけど…。例えば何を話したとかは覚えてる?」


「何を話したか?うーん、どうだったかな~。

…元気?とかそんな話しかしてない気がする」


「おいおい、しっかりしてくれよ~」


「だって、ホントにそうなんだもん…。そういうさとくんは話したこと覚えてるわけ?」


「当たり前だろ!俺は…えっと…」


「何?」


「元気か?とか…そんな感じ」


 あか里に言われて、慌てて記憶の糸を手繰り寄せようとする聰だったが、いざ考えてみるとなかなか思い出を引っ張り出してこれない。綿谷と話した記憶はあるものの、何を話したかまではさっぱり思い出せなかった。


「同じことじゃん!」


「…確かに」


「もう!さとくんこそしっかりしてくださいよ~」


「おかしいなー。話した記憶は何回もあるんだけどな…」


「うーん、まぁそういうこともあると思うけど…。気になるんなら明日皆に綿谷君のこと聞いてみる?」


「皆って、ホントに会いに行くつもりなのか?」


「当たり前じゃない。ここまで来たらクラス全員に会う勢いで行くよ!」


「全員かよ?!」


「あはは、それは冗談だけど、それくらいの勢いってこと!」


 あか里はそう言うが、半分本気で言っていそうなのが恐ろしい。さすがにそこまでの労力を割ける気はしない。それに全員に会いに行くくらいなら、いっそ同窓会を企画した方がマシでは無いだろうかと聰は思った。


「ホントに冗談なら良いけど…」


「冗談だって~。あ、お家着くよ」


 だらだらと話しているうちに車が聰の家に到着した。車が無いので家族は出掛けているようだ。


「送迎助かったよ。そしたら、また明日か?」


「いえいえ~。うん、そうだね。明日は同級生のお家巡り!」


 あか里は何だか嬉しそうだ。夏休みの遊びの一つのような感覚でいるのかもしれない。


「わかったわかった。でも、久しぶりの人に会うのは緊張するよ。今日牧島に会うのも何か緊張したわ」


「わかる~。私も凄い緊張しいなんだよね~」


「それは嘘だろ。あか里に限ってありえん」


「なんでよー。失礼だなー」


「そんなキャラじゃないから」


「キャラって…。私どんなキャラだと思われてるの?」


「ご想像にお任せします」


「もー!良いですー!また明日ね!」


「ははは、また明日」

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