あか里の推理
ああだこうだと言い合っていると未歩が注文を持ってきた。
「はーい、お待たせー。ビーフシチューライスです」
「ありがと~!美味しそう!」
「ま、ゆっくりしていって」
「あ、ねぇねぇ、未歩。今、時間ある?」
カウンターに引き返そうとしていた未歩はその声を聴いて席へと戻ってきた。心なしかウキウキしているような素振りだ。
「あるある!めーっちゃ暇だから!」
「あのさ、この辺りに養鶏場ってある…?」
「…養鶏場?どういうこと?」
「良いから良いから!あるの?無いの?」
「…この辺りには無いかな」
未歩はあか里の問いかけに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。あか里はと言うと、してやったりという顔で聰の方を見てくる。聰はその顔を見て、更に悔しい思いにさせられた。あか里の推理が当たっていたかもしれない。だが、これ以上調子に乗せてなるものかと、別の話を振ることにする。
「あのさ、この喫茶店って結構昔からあるの?」
「え、…あぁ、昔からってほどじゃないけど、お母さんが結婚してからだから、30年くらいじゃないかな?」
「へぇ、知らなかったな。俺ら以外に同級生が来たりもすんの?」
「うちが喫茶店って知ってる人はね。でも、あんまり来ないかも。大っぴらには言ってないから」
「私が知ったのも随分経ってからだもんね」
「そうそう。あ、ごめんごめん。つい話に来ちゃったけど、料理冷めちゃうから食べちゃってよ。また後で来るから」
そう言うと、未歩はカウンターへと戻り、備え付けのテレビを見始めた。普段は知らないが、今日は相当暇なようだ。
「どうやら私の名推理が的中したようですな~。いやはや参った参った」
聰はあか里の方を一瞥して
「わ~ビーフシチューライスだってさ~。うっまそ~。冷める前に食べようぜ~」
と、言い放った。
「うわ!誤魔化すの下手っ!!」
「良いだろ!冷める前に食べないと美味しさが半減するじゃねぇか」
あか里は何か言いたげだったが、もう良いやという雰囲気で食べ始めた。そこから二人ともしばらく黙って食べていたが、さっきの会話で思い出したことがあった。再び聰が口を開く。
「俺ら以外にここを知ってる同級生って誰だろうな?」
「うーん、どうだろうね。ここに来た時に誰かと会ったりはしなかったからなぁ」
「案外、綿谷とか来てたりしてな。あの子ってこういう隠れ家的な雰囲気に合いそうじゃん」
綿谷は二人の高校時代の同級生だ。クラスでは目立つタイプではなく、席に座って日がな窓の外を眺めているという感じの地味なタイプだった。聰は特に仲良くしていたわけでは無いが、ふと頭に思い浮かんできた。何となく、ここの喫茶店で本でも読みながら寛いでいるイメージが湧いてくる。
「あ~、綿谷くんね。その可能性は否定出来ないですね…!」
「探偵口調は良いって」
「あはは、くどかった?でも、来てそうな気もするし、未歩に聞いてみようか」
食事も落ち着いたので、カウンターの未歩に声を掛ける。
「あ、食べた?じゃ、下げちゃうね」
「ごめん、未歩。それ終わったら話せる?」
「当然。暇すぎて今か今かと待ってたんだから」
「あは、ごめん。ゆっくり食べちゃったよ。そう言えば、聞きたいことがあるんだけど」
未歩が難しい顔をする。さっきの養鶏場の話題が余程不可解だったらしい。古くからの友人が人が変わったように養鶏場への熱いこだわりを披露しないとも限らないのだから、難しい顔もしたくなるというものだ。
「良いけど…。養鶏場のことはわかんないよ…?」
「今度は違うから!さとくん、言ってやって!」
「俺かよ?!」
今度は聰は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする番だった。慌ててさっきの話を未歩に振る。
「あ、えっと、ここ同級生も来るって言ってたじゃん?もしかして、綿谷とかも来たりする?」
「…綿谷?えーと、ごめん。誰だっけ?」
「あれ、覚えてない?同じクラスだったと思うんだけど…」
未歩は心当たりが無いような反応だ。忘れてしまっているのかもしれない。聰自身、卒業以来だから最後に会ったのは5年以上昔のことだ。余り関わりのなかった知り合いなど、なかなか記憶に残るものではない。
「えー、未歩覚えてないの?」
「うーん。ていうか、そんな人いたかな…?」
「ちょっとしっかりしてよ~。あ、そうだ!卒業アルバム見ようよ!あるでしょ?」
「アルバムか!良いね」
卒業アルバム。過去の自分と向き合うための簡単な方法の一つ。クラス写真を見れば、何でそんな顔をしているんだという自分に思わずツッコミを入れたくなる。アルバムがあれば綿谷もすぐに見つかるだろう。
「あったかなー。でも、そこまでする?」
未歩の言うように普通ならそうまでして確認する気も起きないのだが、聰もあか里もここが元の世界では無いことを知っている。そのままにして放って置けない気持ちになっていた。
「いやー、気になっちゃってさ。お願い出来ない?」
「まぁ、別に良いけど…。ちょっと待ってて。探してくる」
未歩は店の裏へと入って行った。それを見送ると聰が口を開いた。
「…やっぱり気になるよな」
「だねー。何か怖い気もするけど」
「それはそうだな。まぁでも、牧島がホントに忘れてるだけかもしれないし」
「その方が良いなぁ」
そう言うと二人は黙ってしまった。アルバムを見たいような見たくないような、そんな気持ちだ。何故だか不安と緊張が辺りを包み込んでいるような気がしてくる。
その内に未歩が戻ってきた。どうやらアルバムを見つけたらしい。
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