冷酷非情(?)なメイドと幼女エルフ 〜父を探しに三千万里くらい〜
何故パンダ
第1話
暗い暗い屋敷の中、いつもは静かな夜の時間。
屋敷の主人は荷物を急いでまとめていた、それを一人の娘が見守っている。
彼らは街の中でも有名な金持ちエルフ一家、だったのだが。
屋敷の主人がギャンブルで大負けし、今宵夜逃げすることに決まったのだ。
「お前もボーッと見ていないで、早く荷物をまとめろ」
「はぁ……私はとっくに終わってるんだけど?」
「じゃあ先に行ってろ、とにかく急ぐんだ」
「何を偉そうに言ってんの……まぁいいや、ちゃんとお姉ちゃんも連れてきてよね」
娘はわざとらしく大きなため息を吐き、自分の荷物を持って窓から飛び出した。
屋敷の主人は彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、もう一人の娘を起こしに向かった。
複数のメイドたちを連れ、暗い廊下を歩き娘の部屋へと向かう屋敷の主人は考え事をしていた。
妹の方は優秀だが、姉の方は正直に言うと落ちこぼれ、と言うよりはアホの子だ。
今は亡き妻のアホさを見事に遺伝したダメダメガール、果たしてそんな子を連れて行くメリットはあるのだろうか。
いくら実の娘とはいえ、デメリットしかないのならば切り捨てるべきだ。
屋敷の主人はそう思い直し、荷物と複数のメイドたちを連れ、娘を寝かせたまま屋敷の外へと出た。
****
「ん……もう朝? お目覚の朝ごはん食べなきゃ……」
包まっていた布団を弾き飛ばし、ベッドの上に立って体を伸ばす。
エルフ体操をして、洗面所で顔を洗い、大きなアクビをする。
こうして私、プエッラ・ファータの一日が始まるのだ。
「……なんか今日、静かだなぁ」
いつもより人の気配を感じないし、誰の話し声も聞こえない。
少し不安を覚えながら階段を降り、台所へ向かうとそこには一人の女性がいた。
地面に届きそうな程に長いスカートを履き、雪のように綺麗で白いエプロンを身につけ、丁寧に纏められた髪には綺麗なヘッドドレスをかぶっている。
台所に居たのはこの屋敷に複数いるメイドの中でも一番大好きな人、パルトネラだった。
「おっはよー! パルトネラ!」
「……深き眠りからようやく、お目覚めになられたようですね、お嬢様」
私が挨拶をしながら椅子に座ると、パルトネラはお盆を持ちながらこっちにやって来た。
「まずはこれらをお食べください、パルトネラ特製お目覚め悟飯です」
パルトネラはお盆に乗っている皿を手に取り、次々にテーブルへ置いていく。
今日のメニューはよくわからないけど美味しそうなパンと、美味しそうなスープと、美味しそうなお肉。
とりあえず全部美味しそうだった。
「相承知! いただきまーす!」
パンを手に取りかぶりつき、スープを手に取り飲み干して、ナイフとフォークを手に取りお肉を切り口に入れる。
(美味しい! 食べずにはいられない!)
パンはとりあえず美味しく、スープも飲みやすく美味しい、お肉もなんかすごく美味しい。
具体的に何がどう美味しいかい、そんなのどうでも良くなるくらい美味しいご飯だった。
「美味しいですか?」
「至極当然! パルトネラの作ったご飯だもん!」
「食べながら話さないでください!」
「今感想聞いてきたよね!?」
問われたから答えたのに、何故か物凄い目つきで注意された。
それから私は何も言わず、ただひたすら食事に集中した。
「ふー……ご馳走さま」
「相も変わらず豪快な食べっぷり、暴食の罪ですね」
「パルトネラが食べろって言ったんじゃん」
朝ごはんを食べ終え、一息つくと何故かパルトネラにバカにされた。
私はそれに反論しつつ、ついでに気になっていたことをパルトネラに聞くことにした。
「そういえばお父さんと妹のソレッラは? いつもこの時間には起きてるよね?」
辺りを見渡しても、いつもいるはずの二人の姿は見えず、ついでにパルトネラ以外のメイドも見当たらない。
それはどうしてか、パルトネラに聞くと彼女は真顔で椅子に座った。
「何か知らない? パルトネラ」
「二人とも夜逃げしました、お嬢様一人を残して」
「よにげ……? 何それ」
「この家を捨てどこか遠くに逃げたのです、お嬢様のお父さんがバカだから」
「いやいや、お父さんは頭いいよー」
言っている意味はよくわからないが、とりあえずパルトネラが間違っている事を言っているのはわかった。
何故ならお父さんは普通に頭がいいから。
「まさかここまでアホ……もとい、あんぽんたんだったとは……はぁ」
「そんなわざとらしくため息つかなくてもよくない?」
誰が見てもバカにされている、そんな感じのため息をつくパルトネラ。
ちょっとムカついた。
「それでは、バカなお嬢様にもわかるようこのパルトネラ、完璧な説明をして見せましょう」
「あ! 今バカって言った! 謝れ!」
「お嬢様でもわかる、今の状況なぜなになーに、始まります」
「無視すんなー!」
私の命令を無視し、どこから取り出したのかパルトネラは紙芝居を始めた。
「昔昔ではなく現在、お嬢様のお父さんはとてもお金持ちでした」
「それくらい知ってるよ……」
「しかしある日、と言うよりは昨日、バカなお父さんはギャンブルで調子に乗り、その莫大な財産を九割溶かしてしまいました、やはりお嬢様のお父さん、蛙の親は蛙なのでした」
「ギャンブル……ってなに?」
質問には答えてくれず、パルトネラは紙芝居を続けていく。
「お嬢様のお父さんは大変困りました、考えに考え下した決断は夜逃げ、なんて愚かなのでしょうか」
パルトネラはそのシーンが描かれた絵を、ため息を吐きながら丸めてゴミ箱に投げ捨てた。
「あー、もったいない」
「こうして、お嬢様のお父さんと、妹のソレッラ様はこの屋敷から出て行ったのでした、もう帰ってきません、おしまい」
「えっと……つまり、お金がないからもうこの家では住めないってこと?」
結局よくわからなかったが、多分パルトネラはそう言いたいのだろう。
合っていたのか、パルトネラは静かに頷き立ち上がった。
「と、言うわけで私たちも逃げますよ、お嬢様」
「う、うん……ていうか、なんで私だけ置いてかれたの?」
「バカだからです」
「酷くない!?」
「それが事実です現実です、私もまさかそんな理由で置いてかれるとは思いませんでした……」
笑いを堪えているのか、悲しいのか、体を震わせながらパルトネラはそう言う。
(あ! 今ちょっと笑った!)
「さあお嬢様、ご自分のお部屋に戻り、身支度を済ませてください」
何故か自分の右腕を抓りながら私にそう言うパルトネラ、その顔は真面目そのものだ。
「もう……真面目そうな顔して、さっき笑ったくせに」
思わずため息を吐き、食器を片付けてから自分の部屋へと向かう。
廊下を歩いていると改めて実感する、もうこの屋敷には私とパルトネラ以外誰もいないのだと。
「うーん……何持っていこうかな」
大きめのリュックを用意し、その中に必要なものを入れ始めた。
家族写真、好きな本、おもちゃ、大好きだったお母さんのくれたリボン。
「……リボンは付けて行こうかな」
必要なものは入れ終えた、私はリュックを背負い部屋から出る。
「結構早かったですね……あれ、そのリボンどうしたんですか?」
扉を開いた先にはパルトネラが立って待っていた、彼女は大きめなカバンに荷物を入れたようだ。
パルトネラはそれとなくリボンにも触れてくれた、私はよくわからないけど、何だか少し嬉しい気分になった。
「えへへ……似合っているかな?」
「ええ……とてもお似合いです、それでは行きましょうか」
「うん……」
長年、大体300年くらいだけど私が生まれ育ったこの屋敷にお別れを告げる時が
きた。
大人になったらいつか出ていくとは思っていた、けれどこんなに突然やってくるとは思っていなかった。
「あ、ちょっと庭に行ってきてもいいかな」
「そんな時間は……いえ、私も参ります」
パルトネラと手を繋ぎながら、二人一緒に庭へと向かう。
綺麗な花々が辺りを煌めかせ、自然の匂いに包まれた幻想的な庭。
そこに私のお母さんは眠っている。
一際目立つ大きな木の側により、私は小さな声で呟いた。
「今度こそさよなら……お母さん」
風が優しく吹き、私の頭に付いているリボンを静かに揺らす。
私はそれを何だか、お母さんが撫でてくれたように感じた。
「……行こっか、パルトネラ」
「ええ、お嬢様」
冷酷非情(?)なメイドと幼女エルフ 〜父を探しに三千万里くらい〜 何故パンダ @naniyuepanda
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