第10話 安心するには信じなければならない

「それはお答えできません」


サーボの返事はアバターについて質問した時と同様の、答えられないというものだった。

これには大河もどうしたものかと首をひねる。



大河がアバターの件をサーボに追求しなかったのは、それが理由でDWOが出来なくなるとは思わなかったからだ。


アバターが現実と差異がないということで生じる問題の多くは、不特定多数の人に見られるのが嫌だ、または知られたくない人にばれてしまうというものだ。

人によってはそれらによって発生する問題は大きなものになってしまうこともあるから、そういう人達はDWOはやらないだろう。


だが、多数の人は気にはなってもプレイするのをやめる程ではないはずだ。

数多いるプレイヤーの中で知人に会うこと自体少ないだろうし、話題の新規VRMMOであればプレイしていても特に不思議がられないだろう。


DWOの注目度を考えれば、少数を引いたとしても残った多数は相当なものになるはずだ。

そのためアバターが現実と同じであるという理由で、DWOのプレイヤーがいなくなったりサービスが出来なくなるといったことは起こらない。


そう結論づけたからサーボの答えに食い下がらなかったのだ。



しかし感じるはずの心理的抵抗がないという問題はアバターの件とは逆で、もしかするとDWOが出来なくなるのではないかと大河は心配している。

それは心理的抵抗を感じないというのが、強度な意識の誘導に該当する可能性があるからだ。


フルダイブまで行うVRだと少なからず意識の誘導に近いものはある。

ただそれは例えば高所での恐怖を和らげたり、乗り物酔いを抑えたりといった程度のもので、現実で感じるはずの感情を感じさせないようにしているDWOとは比較にならない。


この強すぎる意識の誘導が洗脳だと指摘される可能性は十分にある。

他にもなにかを誘導されてることだってあり得るし、多数の人がプレイするということがここでは仇になっている。


大河自身は既にDWOの世界に魅了されてしまったので、これについても飲み込むと決めたが業界や他のプレイヤー達はそうもいかないだろう。


DWOが出来なくなるのは嫌なので、自身の考えが違うことを証明したい故の質問だったのだが、サーボは答えてくれなかった。




どうせ証明も出来ないし、自身の考えが見当違いの可能性だって十分ある。

楽しめる間に堪能しよう!と大河が意識を切り替えようとした時、サーボから声が掛かった。


「タイガ様の懸念を教えて下さい。その問題があることで、タイガ様はDWOをやめることになりますか?」


サーボの問い掛けに大河は驚いた。

今までサーボは事務的にこちらに説明するばかりで、サーボから質問されることはなかった。

さらに質問された内容もサーボが答えられないと返したものというのも驚きだ。

AIが結論がついた内容を蒸し返すような質問をすることは通常ないのだ。


AIらしからぬサーボの行動に驚きつつも、これ幸いにと大河は自身の考えをサーボに伝える。

自分は全く気にしないしDWOをやめることもないが、意識の誘導と判断されDWOのサービスが停止されると嫌だ、と。


「タイガ様の懸念は把握しました。またDWOを引き続きプレイしてくれることに感謝します」


感謝の言葉を前置きにサーボは続ける。


「懸念に関してはご説明はできませんが、そうならないことをお約束します。DWOのサービスは続き、それらの問題は問題になりません」


結局意識の誘導に関して否定も肯定もしてないが、DWOはサービスを続けるとサーボは答えた。

その説明に信憑性はないのだが、通常あり得ないサーボの行動もあり大河は信じてみることにした。


「答えられない内容に関わらず、出来る範囲で説明いただきありがとうございます。DWOを始めたばかりです、まだまだ楽しみます」


これらの問答で大河はこの白い球体のサポートAIに親しみを感じ始めていた。

信じてみる気になったのもそれが理由だったのかもしれない。


「これからもよろしく!サーボ」


信頼の証か少し砕けた様子の大河の言葉に、サーボは何故かピカピカと光るだけだった。

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