第11話 一国一城の主、ただし寝るだけの場所
鋭い牙を喉元に突き立てようと大きく口を開き飛びかかってくる狼を、大河は左手に持つ盾をその口に押し込むようにして防ぐ。
木の盾に牙が食い込むが、そのおかげで狼の動きは止まる。
その隙を逃さず大河が右手に持った剣を狼の横腹に突き立てると、狼は光に変わった。
だが次の瞬間大河の左足首に別の狼が噛み付いた。
瞬時に感じる不快感に大河は顔を顰めるが、狼が居るだろう左後方に剣を振り下ろす。
足首に噛み付いたままの狼に当てることは出来たが、噛まれた状態の左足に力が入り切らず倒し切ることは出来なかった。
ギャンと悲鳴を上げ飛び退いた狼を尻目に大河は体勢を整える。
痛みによるものか怒りに満ちた瞳で大河を睨みつける狼と向かい合う大河。
先に動いたのは狼で大河目掛けて勢いよく向かってくる。
それに対して大河は右手の剣を正面に構え意識を集中する。
「はっ!」
既に倒した狼と同じように飛びかかってくる狼に、大河は構えた剣を振り上げ鋭い踏み込みと同時に勢いよく振り下ろす。
淡い光を帯びた剣は狼を一刀両断するかのようにその体に吸い込まれ、狼はそのまま光になった。
大河は現在初心者ダンジョンの2階層にいる。
サーボとの問答が終わった後に、食事等で一時ログアウトしたが再度ログイン。
それからダンジョンに潜り続けている。
初心者ダンジョンの2階層に繋がる《ゲート》は、戦闘時間を考慮してもスタート地点から大体1時間くらいで見つけることが出来る。
《ゲート》は《ダンジョンゲート》のような扉ではなく、光と闇の女神像に挟まれた光に包まれた円陣のような見た目となっていて、そこに入ると次の階層に移動することが出来る。
この1時間程度の探索で《ゲート》が見つかるというのを早いかと感じるか長いと感じるかは人それぞれだろうが、階層やダンジョンの難易度で探索時間は変わるのではないかと大河は思っている。
それは1階層では必ず単独で現れていたモンスターが、2階層からは複数で現れることもあったからだ。
単独であれば余裕を持って倒せたモンスターも、複数になると苦戦してしまう。
実際狼2匹の連携に大河はダメージを負っている。
難易度の調整を階層でも行っていると考えるならば、モンスターの行動だけでなく探索時間、つまり階層の広さも変化する可能性もあるはず、と大河は2階層に来てからの探索距離を確認していた。
《ゲート》までの距離は1階層に比べて2階層のほうが長かったので、階層の広さも変化しているとの考えは間違いないようだ。
「《ゲートキーパーエリア》を選択すると《ゲートキーパー》との戦闘に入ります。《ゲートキーパー》との戦闘は専用エリアとなり、同一の《ゲート》から入場したプレイヤーだけで行われます」
《マイルーム》に戻ってきた大河がサーボから聞いた説明だ。
《ゲート》を見つけた段階でストレージが埋まりかけていたため、一旦帰還することにしたのだが、《ゲート》の案内先が《ゲートキーパーエリア》と《マイルーム》になっていた。
ゲートキーパーという単語に好奇心が沸き立つが、自ら確認できる状況でもなかったので《マイルーム》に引き返しサーボに確認したのだ。
《ゲートキーパー》は万全の状態で挑むとして、戻ってきた大河はダンジョンで取得したアイテムを整理している。
プレイヤーが持っているストレージとは別に《マイルーム》には倉庫があり、ダンジョンで取得したアイテムやDPを用いて購入したアイテムをそこに保管することができる。
倉庫の容量は《マイルーム》の拡張レベルに依存するようなので、元からレベルを上げていく予定の大河は容量に悩むことは無さそうだ。
そんな大河の《マイルーム》の拡張レベルは現在2になっている。
1から2へのレベルアップに必要なものはDPだけで、それも2回のダンジョンダイブで貯まったので早速上げてみたのだが、拡張エリアが広がっただけで他に変化はなかった。
必要DPも少なかったのでそんなものだろうと特に気にしていない大河は、ついでに家も建設することにした。
「このログハウスにしようかな」
「キッチンや暖炉などの設備はどうしますか?」
「全部作るには素材が全然足りないな、後から追加は?」
「可能です」
「それじゃあ、とりあえずベットだけお願い」
「わかりました」
必要DPや素材から現在建設可能な家を探し、草原に似合いそうなログハウスに決めた。
設備があればキッチンで料理なども出来るみたいだが、素材が足りなかったのでベットだけにしておいた。
サーボを介して全て決定すると、建設予定地点に四角い大きな箱のようなものが出現した。
箱は光っており外から中は見えず、トンカンと木材を加工する音だけが聞こえ、立て看板には「タイガ様 新築建設中 残り4時間59分」と書かれている。
家が建つまで5時間、その間大河は《ゲートキーパー》に挑みに行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます