第9話 時には戦闘より夢中になるもの

深呼吸を繰り返し、乱れた呼吸を落ち着かせた大河は先程の戦闘を振り返る。


先制攻撃され体勢まで崩されたにも関わらず反撃で勝つことが出来たのは、ここが初心者ダンジョンで相手がそれ相応な強さだったからだろう。


決着はあっさりとしたものだったが、この戦闘で得たものは大きかった。

スキルやサーボの言っていた言葉の意味がわかったからだ。


まずスキルについてだが、カウンター気味だったとはいえ盾で叩いた猪が予想以上に跳ね跳んだのは、シールドバッシュというスキルが発動していたためだ。

ステータスと同様にスキルも表示されないようで、取得後はそのスキルについて使い方などが取得方法が何故かわかるようになっており、このスキルは盾で攻撃するというものだった。


戦闘中には気づかなかったが、スキルは発動すると精神力のようなものが消費され、それが無くなると発動は出来なくなる。

他のスキルはまだ覚えてないが、恐らくスキルによって消費量は違うはずだ。


次に攻撃を受けた時に感じたなにかが削られる不快感。

あれは体を守る生命力やバリアーみたいなものが削られていたのだろう。

体は衝撃で吹き飛んだりはするが、痛みはそれが肩代わりしており、削られ無くなると死んでしまう。

これ以上削られると死ぬというのが感覚的に理解できた。


そして猪を倒した後の光の粒子。

それを吸収した瞬間、大河はほんの僅かだが自らが強化されたのを感じたのだ。

一匹の猪ではほぼ変わらないはずなのに、強化されたということは何故かわかった。


サーボはステータスは表示されないがわかるようになっていると説明していた。

そして説明では伝わらないとも。

それは誇張でもなんでもないただの事実だった。

目に見えないもの、知らなかったことが何故かわかるようになっていたという感覚は、実際に経験しないとわからないだから。




情報の整理が終わった後、大河は《ゲート》の探索を再開していた。

戦闘が起こることもあったが、落ち着いて臨めばこの階層のモンスターに苦戦することはなかった。

なので採取をしてみることにした。


「はっ!」


掛け声と共に目の前の大きな木に向かって剣を叩きつけるが、傷が入るだけでアイテムの取得が出来る気配がない。

何度試しても同じでどうしたものかと悩んだところ、支給品の中に木こりの斧があったのを思い出す。

剣に変わり木こりの斧を装備して木を叩くと、今度は傷が入るだけでなくストレージにアイテムが収納された。

それだけでなくモンスターを倒した時のように光の粒子が現れ体に吸収された。

どうやら採取でも経験値を取得することが出来るようだ。


「せいっ!やっ!」


そのまま斧を何度か叩きつけると木は消滅した。

ある程度採取するとそのオブジェクトは消える仕組みらしい。


「~~~♪」


木こりが楽しくなった大河は、《ゲート》が見つかるまで鼻歌混じりに採取を繰り返していた。


採取をしてわかったことをまとめると、木材や鉱石の採取にはそれ専用の装備が必要らしく、それ以外の装備ではオブジェクトを傷つけることはできても、アイテムの取得はできない。

オブジェクトは、木なら森や林、鉱石は岩場など特定の位置に生成され、採取が終わればは消滅し、時間が経つとまた生成される。


また採取を行うことでも経験値は得ることもできる。

モンスターを倒した時よりは効率が悪いようだが、繰り返し行う作業なため馬鹿にならない。


ストレージの容量は思ったよりは大きかったが、モンスター討伐と採取を並行して行うと余裕はない。

容量自体は経験値を得ていくことで自動的に拡張されていくようだが、当面はどちらかに絞ってダイブするようにしようと大河は決めた。




《ゲート》から《マイルーム》に帰還した大河だが、モンスターに攻撃するのに全く躊躇いを感じないことが気になっていた。

戦闘を伴うVR作品でのモンスターは、ファンタジー要素が強いものが多く現実感が薄いため攻撃するのに抵抗感があまりない。

人型のモンスターがいてもそこまでリアルではないため意識することはない。


しかし先程まで戦っていたモンスターはそうではない。

現在戦ったモンスターは猪や狼などの動物系で、細かい毛並みや獰猛な牙や爪、威嚇する鳴き声、垂らす涎などその姿は本物にしか見えない。

いくら襲いかかってくるとはいえ、姿だけ見れば可愛く見える部分もあり、現実で飼育している人もいるのだ。

それを現実の自分と同じアバターで、さらに武器を持って攻撃しているというのに心理的抵抗がない。


大河は『超人』であり精神も強いがなにも感じないわけではない。

感じたうえで、ただそれに押し潰されないだけなのだ。

だからモンスターとの戦闘になにも感じないことを大河は疑問に感じたのだ。


故にそれをサーボに質問したところ、返ってきた答えに大河は苦笑いすることになった。

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