第8話 これから始まる快進撃、だが今はまだ弱い
《ダンジョンゲート》と呼ばれた扉を前にして、大河は迫力に圧倒されていた。
青みがかかった黒色と四角い形が重厚さを、随所に施された意匠から繊細さを感じさせる。
大きさは縦横10m幅3m程はあり、裏表はなくどちらからでも利用することが出来るようだ。
この扉だけでも十分な存在感なのだが、左右に聳え立つ女神像はそれを超えていた。
大きさは扉と同じくらいだが、作り込みは扉のそれの比ではない。
光の女神は盾を携え、闇の女神は剣を正面に構えているが、どちらも神が持つに相応しい装飾や意匠が施されている。
身に纏ったドレスは足首を隠すほど長く、裾は広がり軽さを感じさせる。
袖や首元は模様のついたレースに覆われており、手に持っている武器の力強さとは対象的に可憐である。
光と闇の女神は双子神であるので、風に舞う長い髪や豊かな胸元、女神に相応しい美貌などその容姿は瓜二つで不思議はないのだが、同一の像を二つ並べていると言われてもおかしくないほど細かい部分まで全て似ている。
大河はそこに神秘的なものを感じていた。
思わぬ迫力に驚いていた大河であったが、気を取り直してダンジョンに挑もうとコンソールを操作する。
現在は初心者ダンジョンしか開放されていないのでそれを選択し、扉に手を触れる。
明らかに人の力では動きそうにない巨大な扉は、少し力を込めると内に開いていく。
「今度こそ行ってきます」
「いってらっしゃいませ、タイガ様」
人が通れそうなほどの隙間が出来ると、ついてきていたサーボに声を掛け返事を聞かずにダンジョンに飛び込んだ。
一瞬で視界が白く染まり、それが徐々に治まると大河は森の中にいた。
背の高い木々が生い茂り、枝葉の隙間からは木漏れ日が地面に降り注いでいる。
辺りには木の香りが立ち込め、遠くからは先にダンジョンに来ていたプレイヤー達の発する音が聞こえる。
「...あぁ、装備をしないと」
《マイルーム》とは違う新たな世界にまた驚いたが、サーボの言葉を思い出し装備を確認する。
ストレージを表示させると、装備欄とアイテム欄は分かれており、アイテム欄にある装備品を選択することで装備できるようだ。
装備欄を見る限り装備箇所にあまり制限はなく、指輪などは指一本ずつ分けて装備するといったことも可能らしい。
勿論支給された装備はそこまで豪華ではなかった。
右手には片手で扱えるサイズの剣、左手には木で出来た丸い盾を持ち、同じく木で出来た胸当てと小手、脛当てを装備する。
大河の体格は一般男性を遥かに超えたものだが、支給されたものだからかそれらのサイズは大河に合ったものになっていた。
必要最低限で支給されたそれらを装備した大河は、現実では持ったこともない剣を振ったり盾を構えてみるなど動作確認をする。
剣はしっかりと重さを感じ、意識しないと振った瞬間その重みに体が振り回されてしまう。
盾や身に着けた防具も同様で重さは感じるが、こちらは動きづらさは感じない。
装備品の重さにはこれから気をつけないといけないと大河は感じた。
一通りの確認が終わったので、森を探索することにした。
どうやらマッピングは自動で行ってくれるようで、地図を表示させると探索した箇所がわかるようになっている。
そうして2階層に繋がる《ゲート》を探しながら歩いていると、茂みの奥からなにかが飛び出してきた。
「フゴッ」
突然目の前に現れたそれは1mを超えるサイズの猪で、鼻を鳴らし前足を地面に引っ掻いて大河を威嚇していた。
いきなりの襲撃に大河が準備を整える前に、猪が大河に突っ込んだ。
「ぐあっ」
勢いよく飛び込んできた猪が大河の腰辺りにぶつかり、その衝撃で大河と猪はその場に倒れる。
痛みはないがなにかが削られる不快感に大河が呻いていると、体勢を直した猪が再び突っ込んでくる。
「プギッ!?」
大河が咄嗟に左手の盾で飛び込んできた猪の顔を叩くと、当たりどころが良かったのか猪は横方向に跳ね飛ばされた。
左手は痺れやはりなにかが削れる不快感はあるが、この好機を逃すまいと大河は立ち上がる。
「はああああ!」
そして未だ跳ね飛ばされ転がる猪に、倒れても握っていた右手の剣を振り下ろす。
肉を割く手応えはなく、断末魔の声と共に猪は光の粒子に変わった。
光が大河に吸い込まれると、そこに戦闘の跡は何もなくなった。
静けさを取り戻した森の中で、大河の荒い息遣いだけがまだ響いていた。
こうして大河の初戦闘は遭遇戦で始まり、なんとか勝利できたものだった。
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