第4話 仮想が現実に追いついた瞬間


DWOサービス開始当日、大河は専用デバイスを身に着けログイン開始時間を待っていた。


通常フルダイブを含めたVR関係のデバイスは互換性があるため、新旧などで性能の差があっても、規格内であればどんなソフトも利用できるようになっている。


しかし星見は自社で専用のデバイスを開発しており、DWOはそれからでしか遊ぶことが出来ない。

また他のVRに接続することも出来ないので完全にDWO専用デバイスになっている。


そのため賛否両論巻き起こったが、星見がこの専用デバイスは無料配布すると発表したため大きなものにはならなかった。

並の企業がこんなことをすれば経営を疑われるものだが、圧倒的資本を持つ星見にそれはなく、残った否定的な意見も実際に専用デバイスが配布され始めると消えていった。

大河にも届いたが専用デバイスの大きさが合わなかったので問い合わせてみると、サイズ調整してくれた大河専用の専用デバイスが届いた。


そんな由来のあるデバイスを身に着け待つことしばし、漸くログイン開始時間が訪れた。

はやる気持ちを抑えヘッドギアデバイスのバイザーを降ろし起動させ目をつむる。

直ぐに企業ロゴが流れだし、続いてDWOのタイトル画面が表示される。

必要なデータは事前に登録してあるため、この画面が過ぎればゲーム開始である。




冒険が始まるような壮大な音楽が流れるタイトル画面で、ゲーム開始を選択した大河は一瞬の浮遊感の後、草原に立っていた。

思わず見渡すがどこまでも緑が続き果てがわからない。

空は青く、太陽は輝き、時折白い雲がそれらを遮っている。

少し離れた先には両脇に女神と思われる像を備えた場違いに大きな扉が見える。

建物の入り口などではなく、扉だけが草原に存在してるのだ。

扉の存在は謎だがそれ以外は世界のどこかに存在していてもおかしくない牧歌的な風景だ。


周囲を一通り確認できたので、大河は次に自身を確認することにした。

性別や体格は事前に登録しておいたパーソナルデータをしっかりと反映している。

服装はいつの間にか動きやすいものに変わっており、着心地は良く、サイズもぴったりで自分で脱ぐこともできた。

髪を揺らす風には緑の匂いを感じ、足裏には踏みしめる地面の感触がしっかりとあるなど五感もしっかりしている。

軽く体を動かしてみたが現実と比較しても全く違和感がなかった。




「これほどとは...」


大河はDWOの想像を超えた作り込みに驚きが隠せないでいた。

過去にもフルダイブVRはいくつか体験したことはあるが、それらは現実と見間違うほどではなかった。

出来が良い悪いではなく、単純にVR技術の限界だったからだ。

そのためDWOも公開された情報から現行の技術は超えているとわかっていたが、現実の世界に存在していると感じるほどの作り込みの世界が出てくるとは想像できなかった。


そして大河が最も驚いたのは、体の動きの違和感の無さだ。

開発側には全く関係ないが、『超人』である大河の体格は一般的成人男性とは比較できない。

そのためパーソナルデータを登録したとしても、その冗談なような数値を再現するのは難しくどうしても動作に違和感が残ってしまうのだ。

大河もそれを理解していたからこそ、現実との差異の無い動きに本気で驚いたのだ。




実際に体験してみればその完成度の高さに驚く。

そしてこれを成した技術力の凄まじさ、にも関わらず専用デバイスを無料配布するという異端さで星見とDWOは更に注目されるだろう、と大河は確信するのであった。

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