第5話 求めるなら飲み込むしかない
「DWOへようこそ、タイガ様」
大河がログインから短時間で受けた衝撃から復帰すると、それを待っていたかのように何処かから声が掛かる。
声の主を探そうと周囲を見回す大河は、上空から白い物体が下りてくるのに気がついた。
「改めましてDWOへようこそ、タイガ様。私はタイガ様担当のサポートAIになります。これから始まるタイガ様の冒険の補助をしてまいりますので、よろしくお願いします」
大河の目の前で止まり浮遊しているバレーボール大の白い球体は、抑揚のない男性の声でそう告げた。
「...こちらこそよろしくお願いします」
開始直後に説明キャラクターが急に登場するのはVRMMOなどではお決まりの展開だが、ログイン直後から驚きが続いているため大河は少し警戒しながら言葉を返した。
「まずは確認と注意事項について説明します。質問は後から受け付けますがよろしいでしょうか?」
「それでお願いします」
大河の警戒を余所に白い球体は説明を始める。
白い球体が説明した内容で大河が重要だと感じたのをまとめると、
・パーソナルデータを正確に入力していない場合、DWOを正常にプレイすることはできない。
・その状態でログインを続けると体調不良などで強制ログアウトが発生する。
・強制ログアウトが発生した場合、状況によっては救急隊が自動で出動する。
・容姿は髪型や目の色などの変更のみ可能。
この4点になる。
通常VRでパーソナルデータを入力することはない。
それはVR上でのアバターは現実の自分とは違うことが基本となっているからだ。
VR上では作成されたアバターで活動するので、現実での自分のパーソナルデータは必要ない。
現実に寄せたアバターの作成には必要になるが、需要は少なく一般的ではない。
みんな現実の自分より別のナニカになりたいのだ。
専用デバイスのセッティング時、パーソナルデータは正確に入力してください、とかなり念を押されていたが、求められるパーソナルデータがかなり細かく、通常ならそんなデータは必要ないだろうというものまであった。
撮影した自身の画像を読み込ませるといったものなどである。
その煩わしさと、パーソナルデータの入力自体をしない人が多いという背景から、正確に入力しない人は一定数いるだろうと大河も思ってはいたが、まさか強制ログアウトとそれに伴う救急隊の出動までは想像していなかった。
これはパーソナルデータを入力しなければDWOは出来ません、無理にやろうとしたら痛い思いをしますのでご注意ください、という星見からの表明である。
容姿の変更がほぼ出来ないということからも、星見は現実の自分とほぼ変わらないアバターでDWOをプレイさせたいという強い意思を大河は感じた。
「質問いいですか?」
白い球体のどこに目やカメラがあるかわからなかったが、小さく挙手をしながら大河が声を掛ける。
「どうぞ」
「正確にパーソナルデータを入力し、それが反映されていると感じます。先程出してもらった姿見で確認した姿も現実の自分と違いがわかりません。体格等は動作に影響するので理解できますが、容姿が変更できない理由はなんですか?」
性別や体格は違和感ない動作を実現させるために必要なデータだ。
しかし容姿は変わろうとも他に影響はでないのではという質問の答えは、
「それはお答えできません」
という大河の予想外のものだった。
「理由を聞いても?」
「それもお答えできません」
聞き方を変えても答えは同じなので、どうやら公に出来ない理由があるのだろうと大河は結論づけた。
疑問に対する答えはなかったが、それは大したことではない。
どんな理由があるにせよ、DWOをするためにはパーソナルデータを入力し、現実と変わらないアバターになる必要がある。
理由がわかったところで、それに変わりはないのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます