第2話 行動力の化身

睡眠時間が減りだした当時、大河は活動時間が増えた事をとても喜んだ。

元来好奇心旺盛で常になにかに夢中だったので、増えた時間でまたなにか新しいことが出来ると考えたからだ。


実際それからの大河は興味を覚えたらとりあえず挑戦するようになった。

学校生活では部活は掛け持ち、生徒会等の学校行事も参加した。

夜は勉強や読書など家で出来ることをし、休日には様々なアルバイトしつつ、釣りやキャンプ、コンサートなどにも出掛けた。


高校を卒業し大学進学を機に一人暮らしを始めると更に拍車がかかった。

卒業には必要のない科目を受講する、サークル同好会は当然掛け持ち、高校時代には出来なかったアルバイトをしてみたり、海外に旅行という名の遠征にも行った。

この頃は夜のアルバイトで騒動に巻き込まれたり、怪しい研究室の実験に参加し大学に被害を出したりと変わった経験もした。

余りにも多岐に行動していたため、大学周辺では少し探せば大河の痕跡が見つかると言われるくらいだった。


人よりも多く活動でき、疲れを知らず、精神的にも強くストレスを感じないので止まることがなかったのだ。


そんな『超人』だから出来る生活は、大学を卒業し社会に出ても変わらない。

就業時間は特注のスーツに身を包み営業をして、就業後は会社関係の付き合いがあれば参加し、なければその時気になるものに飛びつく。

休日も同様だ。




そうして数年が経ったある日、とある次世代フルダイブVRMMOの発売が発表された。

曰くこれまでのVRMMOとは全く違う。

曰く空想を体験できる。

曰く期待は裏切らない。

絶対の自信を感じさせる内容で発表されたタイトルは『Dungeon World Online』


様々な媒体で発表された華々しい宣伝動画を見た瞬間、大河は長年勤めた会社を退職することに決めた。

会社勤めでは楽しみきれないと感じるくらい素晴らしい内容だったからだ。

営業のエースの突然の退職意向に面食らった上司は、あらゆる手段で引き止めたが大河がそれに応じることはなかった。

そこに迷いは全く無く新たな興味対象に、はやる気持ちを抑えきれていなかった。



30歳を目前にした桜舞い散る季節、大河は無職になった。

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