騎士のお仕事 2

 呪いにも似た強い魔力を持った代々の女王が居城にしていた為か、古き国の女王が住まう王城には魔法由来だと思われる力が溜まっている。今は廃城となった王城の地下もそれは同じ。その魔法の所為なのか、ラウドなどは一日に一回以上、慣れているはずの地下の城で迷ってしまう。だが今回は意外にあっさりと、図書室の入り口である蔓草模様が描かれた片開きの扉が視界に入る。ラウドはほっと息を吐き、何も考えずにその扉を押し開けた。


「やあ、ラウド」


 だが。天井まで届き、あらゆる色の背表紙が見える、本が詰まった本棚に囲まれた空間に、大きめのソファに座って本を読んでいるラウドと同じ色の髪を切り揃えた少年の姿を見かけ、今度は肩を竦めて息を吐く。百年ほど後の未来に、飛ばされてしまった。ラウドはそっと踵を返した。自分が、自分に縁がある人物がいる場合に、過去や未来の今居る場所と同じ場所に勝手に『飛ばされて』しまうという、古き国の騎士達が多かれ少なかれ持っている能力を強く持っていることは、自覚している。だが今日は城内に居るという油断があった所為か、『飛ぶ』能力を押し留める『記録片』を持ち出すのを忘れていた。少年の、ラウドの異父弟ルイスの子孫であるリヒトのいる未来で、カルの行動を記した書物を見ることはできない。見ようとしてもリヒトにはっきりと拒絶されるだろう。かつてラウドは、未来の図書室で自分の、『飛ぶ』能力の所為で穴だらけの記録を読み、古き国が滅び、ラウド自身は敵である新しき国の王レーヴェに殺され、遺体は柱に括り付けられたまま朽ちるまで晒されるという未来を知った。その未来は、同じくルイスの子孫であるルージャによって覆され、ラウドも女王も無事でこの隠された城の地下に潜んでいるのだが、ラウドが勝手に自分の記録を読み、未来を知ったことを、図書室の管理者であるこの青白い顔の少年は未だに許していないことを、ラウドは知っていた。だから。ラウドはもう一度、蔓草模様が描かれた扉を引き、外に出た。


 と。


「レイが、居なくなった」


 扉が閉まる前に聞こえてきた、責めるようなリヒトの声が、ラウドの耳をひっぱたく。


「何があったの?」


 しかしラウドが振り向くより先に、図書室の扉は無情な音を立てて閉まった。


「え?」


 もう一度、蔓草模様が描かれた図書室の扉を押し広げる。だが今度は、図書室の中にリヒトの姿は無かった。

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