第9話
「須藤くーん。昨日のことでちょっとお話がありまーす」
昨日の一件から一夜明けて火曜日の学校でのこと。ちなみに朝起きたときには綾瀬はいなかった。どこか寂寥感はあったが今日も生きている自分にホッとする。
さすがに二日連続で無断欠席は家に電話がかかってきて面倒くさいので、四日ぶりの登校をしたのだが、朝礼と同時に担任の先生に捕まってしまう。
「須藤くんは何もない日にサボるような子じゃないことは先生知ってます。じゃあ昨日は何で休んだんですか」
「先生、それは間違っています。何もない日ではありません。先生にとっては仕事、俺にとっては苦痛に苛まれる特別な日です」
「揚げ足取りをするということは何か言いたくないことがあるんですね?」
「いやいやまさか。先生との会話を楽しみたいだけですよ」
俺の嫌いな今まで出会った先生ランキング暫定一位の加藤
「だったら昨日もちゃんと学校に来ればいいものを。私はそういう甘い言葉には騙されません。おとといもコンパでいい感じの男性が私に甘い言葉をかけてくれてはうってなりましたがその人結局ニートでしたからねさんざんですよまったくもう」
ちなみに独身でアラサーという人生の枷を背負っていて大変らしい。なんというか、頑張ってください。
「で、結局来なかった理由は言いたくないんですか?」
「そうですね。ちょっと体調崩してました」
「……はぁ。分かりましたそれでいいとしましょう。何か問題があるなら、私じゃなくてもいいのでちゃんと打ち明けるんですよ?」
そういって加藤先生は職員室に消えていく。こういう配慮ができるのはいい先生だと思うけど。
だが今抱えている問題はクラスメイトに俺を殺そうとしてくるやつがいるってことなんだよな……。
***
「…っしょー。さすがにあれはヤバいわ」
「でしょー? うちもそれ思ったわ」
「えー、あたしもソレ見てみたかったー」
席に戻ると後ろでは派手な格好をしている奴らが騒いでいる。その中には昨日の家にまで来た相花莉愛の姿も見える。
「かいっ…、須藤氏は昨日は学校来なかったでござるなぁ」
「おいらも心配したでやんす」
「誰だお前ら」
「ひ、ひどいでござるよぉ須藤氏~」
「デブのことは忘れてもおいらのことは忘れないでくれでやんすぅ~」
「いや悪いな。目の保養ってのは失った時に初めてその重要性が分かるってことか」
変なオタク口調のデブ眼鏡が武田、チビでチビなのが小谷。よくつるんでる。以上紹介終わり。
「その様子だといいラブコメを見つけたでやんすか?」
「いやいや、須藤氏は機嫌悪いからラブコメだと思ったらエッチな方面を売りにしている系の恋愛もどきな作品を見たに違いないでござるなぁ」
「何を言うでやんすか。須藤君の顔色は二段階くらい明るいでやんす。武田はまちがってるでやんす!」
「ぐふふふふ、須藤氏と出会って8年の僕の慧眼に間違いなんてないでござる。小谷君はまだまだでござrrる」
「どっちも違うから。勝手に盛り上がるのはやめろ」
このままだと永遠に言い争いをするので止めるしかない。こいつらはいつも喧嘩してるな。
「ぷふふ、何あれ。ザ・オタクってかんじ」
「あーゆーのが同じクラスってまじさがるよねぇ」
「あたしは面白いやつもいると思うけどなー」
「えー? ないない! やっぱ莉愛はズレてるわ」
わざわざ俺らに聞こえるように話しているのがまるわかりだ。だからと言って反発することもできないのが俺たちの弱みだが。
「…まったく、あいつらも懲りないでやんすね。特に相花はおいらのことをごみを見るような目で見るでやんす」
ここで相花の話題が出てきたのでここぞとばかりに質問をしてみる。
「そういえば相花ってどんな奴なんだ?」
「おいらは嫌いでやんす。胸は大きいけどそれ以外はタイプじゃないでやんす。それ以外は特に知らないでやんすねぇ。武田は何か知ってるでやんすか?」
「……え? あ、うん。あんまり分かんないかなぁ」
どうやら二人は知らない様子。今まで相花のことは存在ですら認知していなかったから情報不足が深刻だ。
「そうなると誰に聞けばいいんだろうか」
「え、須藤くんは相花のことが気になってるでやんすか? やっぱり胸でやんすか!? それともギャルがタイプとか…」
「あ、相花氏はやめておいた方がいいでござるよ……」
「いやそうじゃなくて。単純にどんな人間なのかを知りたいなって思っただけで」
「須藤くんが誰かに興味を持つなんてそれだけでひょうとあられとみぞれが一気に起こるでやんす!」
いやひょうとあられとみぞれは似てるだろ。一気に振ってもおかしくない気がするが。
キーンコーンカーンコーン
そうこうしているうちに一時間目のチャイムが鳴る。俺は席に座っているので他二名が席に戻っていく。武田は浮かない顔をして戻っていったのが気になるが、俺も昨日休んだ理由を言ってないのでお互い様だろう。
だが、ここで問題が二つ発生した。
一つ目は次の授業の先生が加藤先生だということ。加藤は前回の授業を休んだやつに問題を当てる傾向にある。そして俺は当然のごとく教科書を持っていない! 必然的に隣のやつが誰かが重要になってくる。
二つ目は隣の席の人物が空席だったこと。荷物は置かれているが誰なのか分からない。おそらく女子。普段、俺は授業は居眠りをして、隣の席の人は休み時間にすぐにどっか行くので隣が誰かが分からない状態だ。
だが、二つ目の問題は最悪の形で結末を迎えることになる。
「よっ、須藤。昨日ぶり」
後ろからラフな言葉から飛んでくる。歩きながら挨拶をした本人は俺の隣の席に腰を下ろす。昨日ぶりという言葉が示すのは昨日会った人物だけが使える言葉。これが示すことはつまり。
「……お前隣だったのか、相花」
昨日家に張り込みをして俺に殺す宣言を残したやべーやつ。昨日と同じく派手な服装、目立つ金髪、はだけそうな胸元。相花莉愛本人だ。
「本当にクラスに興味ないんだね、須藤って。普通にショック」
いや俺自身も驚いてるわ。こんな目立つ容姿の人間を俺は覚えてなかったなんて…。
そんなことよりもこいつが隣で大丈夫か? さすがにこんな公然の場所で人を殺めるなんてことしないよなさすがに。
「ねえねえ須藤、放課後時間ある?」
どこかわくわくした笑顔を浮かべながら話しかけてくる相花。なんでそんなに楽しそうなのかは分からないが、逆にその笑顔が怪しい。
「殺されるのは勘弁だぞ」
「そんなことしないって。二人でさ、駅前のカフェ行こうよ」
「なんで」
「いいじゃん。どうせ家に帰るだけでしょ? どうせ他にすることないんでしょ? どうせ暇でしょ?」
「まったくもってその通りなんだけど……」
いやいや、昨日あんだけ恨んでるとか殺すとか言ってたくせにカフェに誘うって…。これが武器ショップ行こ? とか富士の樹海に行こ? とかだったら分かるけどさ。いや分からんけど。
「それにあたしを見ておかないと家に何するかわかんないよ? それでもいいってゆーなら好きにするし」
その言葉はマイルドに言っても脅迫の二文字なのだがこのギャルには常識観念が崩れているのだろうか。ギャル業界に詳しくないから教えて誰か……。
「ほら須藤、相花、授業始まってるぞ」
加藤から注意を受けるが俺の頭の中はこいつをどうするかしか頭にない。
「じゃ、そゆことで。よろしくね須藤っ」
俺はその陰りのない笑顔に否定をすることは出来なかった。
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