カレぇライスのお味

 ご主人様、お待たせしました。カレぇライスが出来上がりましたので、今お皿に盛りつけて持っていきます。


『こっこっこっこっこっこっこっ』


『カタッ』


 どうぞ、お召し上がりください。出来立てですよっ。湯気が出るほど熱々に仕上がっていますので、どうか火傷にはお気をつけてくださいね。……あら、どうかしましたか? そんな照れくさそうにしてますけど。


 ……んわっ!? ……こほん。いえ、ご主人様が食べさせてほしいとご希望というのであれば、わたしはしっかりそのお願いにこたえるまでです。お任せください。むしろ、優しいご主人様に食べさせてあげられてわたしの方が嬉しいです。どうぞお気になさらずに、お口を開けてください。それでご主人様、スプーンに乗せる具材はどうしましょうか? お芋にニンジン、お肉、どれからいきましょうか?


 ……分かりました。ではまずはこのお芋をカレぇのルゥがかかったご飯と一緒に乗せて。


『カチャッカチャッ』


 はい、ご主人様。それではお口を開けてください。あ~ん。


 ……どうですか? 粘り気があって煮崩れしないお芋を使いました。


 ……美味しいですか!? ほっ。よかったです。料理は間違いなく成功したのですが、ご主人様のお口に合わないかもしれなかったので不安がありました。でもその美味しそうな表情を見たら安心出来ました。さぁさぁ、もっと食べてください。次はどうしましょうか? ニンジンと一緒にいただきますか? お肉にしますか? それとももう一度お芋にしましょうか?


 ……はい。では、お次はお肉をスプーンに乗せていきますね。それではご主人様、お口を開けてください。はい、あ~ん。


『カチャッカチャッ』


 ……いかがですか? 牛肉と鶏肉が冷蔵庫に入っていたのですが、今回は鶏肉を使ってみました。あっ、今回はって、これではまるで次もあるみたいな言い方になってしまいましたね。


『ふりっふりっ』『ふぁさぁ、ふぁっさっ』


 んわっ!? 申し訳ございません! わたしは重大な失態をしてしまいました。ご主人様がどちらのお肉が食べたいかを聞かずに勝手に使ってしまいました。本当に申し訳ありません!


 ……そうですか? どっちでもいいと言われて安心はしましたが、よく考えたら少し困ってしまいますね。今後のためにも、どっちのお肉の方が好みとかあったら教えて欲しいのですが、どうでしょうか?


 んわっ!? そんな、わたしが作ったカレぇライスならどんな食材でも関係ないだなんて、そんな嬉しいお言葉をいただけて、とても嬉しいです!


『ふりっふりっ』『ふぁっさぁ、ふぁさっ』


 ふふ。それで、お次はどうしましょうか? ニンジンいきますか? それとも、最初に戻ってお芋にしましょうか? またはお肉を再希望しますか?


 ……分かりました。では、このスパイスが溶け込んだルゥの衣をまとったニンジンをスプーンに乗せていきますね。


『カチャッカチャッ』


 無事にニンジンを添えることができましたので、ご主人様、お口の方、お願いしてもよろしいですか? はい、あ~ん。……どうですか? ニンジンを食べやすくするだけでなく、中まで火が通って柔らかくなるように小さめに切ってみたのですが、いかがでしょうか?


 ……本当ですか? 軽く嚙むだけで切れるほど柔らかく煮込めているなら、安心しました。ほっ。……あっ、ご主人様、口の端にカレーがついてしまってますね。今すぐ綺麗にします。……あー、ぺろっ、ぺろっ……ぺろん。じゅぱっ、ちゅぱっ、ぢゅるっ、ちゅるっ――。


 ……なにをしているのか、ですか? そんなの決まっているではありませんか。ご主人様の汚れた口の端を綺麗にしているところですよ。……ちゅぱんっ、ちゅっ、ちゅるっ、んぢゅっ、ぺろっ、ぺろん、べろっ、ずぢゅ、ちゅるっ、ちゅぱ――。


 ……え、濡れタオルで拭いた方がいいと? 確かにご主人様の意見も一理あります。でもご安心ください。わたしのお口も新品のタオル同様に清潔に保てていますので、ご心配なさらないでください。……んー、じゅるるっ、ぺろっ、べろっ、ぺろん、じゅー、んじゅっ、じゅるんっ、ぢゅ、ぢゅるんっ、ちゅぱっ――。はぁ、ご主人様のお顔、とても美味ですね。カレぇの味はもちろんするのですけれど、それだけでなくご主人様の味を感じ取れてとても美味しいです。その、とても優しい味がします。


 ……イヤじゃないのかと言われましても、イヤだったらそもそも最初から自分から綺麗にしてあげようなんてしませんよ。それよりも、ご主人様もすぐに拒絶してわたしから離れることもできたのに、ずっと黙って拭き取られ続けていたってことは、イヤじゃなかったということですよね? ふふ。もしかして、イヤじゃなかったどころか、嬉しかったりしませんでしょうか? ふふ。大丈夫ですよ。そんなことでご主人様のことに抱く思いは変わりませんので。……はぁん、じゅるっ、ちゅっ、ちゅぱ、ちゅぱんっ、ぢゅ、ぢゅるる、ずぢゅ、ちゅっ、ちゅるっ、ぺろっ、ぺろん、べろっ――。はい、綺麗に拭き終わりましたよ。ご主人様の口の端は洗顔したあとのように清潔になりました。ふふ。

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