第26話 ━力━
予期せぬ現象に出会した僕。
そんなことはお構いなしに帰りを急かす画面の向こう側のニオ。
「急いでよー!待たせすぎだって。」
「待ってよ、足が凄まじいんだって。」
ぬめぬめの参道を抜けて、目標の神社の大木まで戻ってきた。
「ほら、この葉っぱが……」
ニオに半分溶けた葉っぱがへばり付いた残念な右手を見せる。
「うわぁ、地球の植物っていつもこんなんじゃないよね!」
「そんなはずはないが!?」
(触ると溶けるようなそんな植物が至る所に生えているとしたら嫌だなぁ。)
「なんなんだぁ?もう。」
通常ならこんな説明不可能なことは起こりうる筈はない。塗り替えられたこの世界によるものだろう。
……ん?
ズボンで拭おうとした手が僕のポケットの中のスマホに当たった。
今までの僕の考えは、街中をこんなにも変えた目的はどうであれ、トリアンドルスの「標的」は地球人の生み出した「人工物」であり、その光を受けた標的を歪めて溶かしているのでは?というものだった。
だが、どうだろう。
比較できる対象物が少ないが、僕の触れた葉っぱが溶けたということ、僕の衣服やスマホに変化が無いことを踏まえると、おそらく「本当の標的」は、「生命体やそれが所持していた物を除く、トリアンドルスが発した光を受けた物」かつ、「今までのどこかで人間が触れたことのある、もしくは今触れている物」という二つの条件を満たす物。
だから、地球人が触れたという出来事自体がトリガーとなり、光を受けた後に地球人が触れたことのある物、それらが向こうに「人工物」とみなされて溶けていく——のではないか??
「あー、もう駄目、疲れた!」
(考えすぎて頭がおかしくなりそうだ!わけわからん!)
肉体的にも精神的にも僕は今、ひどく疲労困憊なのだ。
筋肉痛で張った足。
変に止まらない汗。
乱れた呼吸。もう力は振り絞った。
「ガッシャーン。ギギギチャアアア」
力一杯腕を振り下ろすマシン。そして再び振り上げる腕に粘り気を増した家屋の残骸が絡み付く音だ。
全てを投げ出したい、疲れきった僕に向けて、不安を駆り立てるように、追い討ちをかけるように、今までで最も大きくて気持ちの悪くなる音が延々とぶつけられる。
(うわぁ、その音はもうやめてくれ。終わろう。もういいんだ。世界と一緒にもう溶けてしまいたいんだ。)
僕の瞼に目一杯の力が入る——
そして力が抜けていく——
このちっぽけな範囲で色々と必死に行動をしてきたけれど、糸がぷっつりと切れてしまったように僕は何もかもが嫌になってしまった。これほどまでに凄惨な体験をし、悉く不快な世界に居続けたせいで狂い始めたのかもしれない。
やるせない自分を削除したい。
このままだと自分が壊れてしまう。
でも、どうすることもできない。
何もしたくない。何もしたくない。何もしたくない。何もしたくない。
何もしたくない。何もしたくない。何もしたくない。
何もしたくない。何もしたくない。何もしたくない。何もしたくない。
(……はぁ、悪夢ならいつか終わるのにな。この気持ちに戻ってきたのはいつぶ——)
「……んじゃないの?」
大木の下で情けなく縮こまって必死に耳を塞ぐ僕にニオが何かを言い放った。
「へ?」
(すまん、耳を塞いで考え事をしていたので聞き取れなかった。なのでもう一度頼む。)
「だから、キミのその手に宿した能力なら、あれを溶かせるんじゃないの?」
と、腕に家々の残骸をひたすらこびりつけた巨大な装置を指差す。
「はい?」
いきなり何を言い出すのか、僕がそんなこと、
……できるのか?
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