第25話 ━現象━

「今、道はこんな感じなんだけど。」

ヘドロのように液状化したアスファルトの方へカメラを向ける。

「うわぁぁ、……酷い有り様だね」

 

僕の今の状況が詳細に伝わるよう、ニオへこの異様な景色を焦らず淡々と言葉にしていく。距離にして二百メートルもないのだが、いつもとは地形がずいぶん違う。そんな悪路に四苦八苦しながら、目的地にたどり着くのに恐らく倍以上の時間とエネルギーを費やしてしまった。

 

「いたいた。ここだ。」

そこにはぬかるんだ道路によりくるぶし辺りまで沈んだまま横並びで立ち止まっている彼女らの姿があった。

見たところでは無事のようだ。

……当然動かないけれど。

 

三人全員が入る画角になるよう端末を向けニオにも僕が感じたままの、この辺りの状況もまた詳しく伝える。笑顔で睦まじそうに止まっているせいか、とても不気味である。

「良かった。ビストもノーザもロロニも大丈夫そうじゃん。」

「あぁ、止まったままだけれど、見た限りでは命に関わるような変化は無いみたいだ。」

 

ここは道の真ん中。僕は三人をこの場からどうにかして移動させようと試みる。だがこちらも足をとられているので抱えて運ぶどころか持ち上げることも至難。

「だめだ、このままじゃ……動かせない」

「ごめんね、厳しそうなら無理に助けなくても」


(うーん。)

 

仕方ない、安全な場所を見定めて移すのは止めて、このままにする。力不足が無理に引き上げてマネキンのように倒してしまってからではどうしようも出来ない。

三人とも前の場所から変化無く、様子を確認できたというだけでも、今は良かったと思うしかない。

周りの通行人もマシンに殺戮されているような形跡はなく、ただそこに不自然に佇んでいるのが分かった。これから殺されないという保証は無いが。

 

と、ふと向こうを見ると視界の奥の方、マンションの付近に小さくあのマシンが見える。

「な!?」


(嘘だろ。あんなところにまでやって来たのか。)


「えぇ! もう一体居たの!?」

ニオも驚く。

「そっちに奴はまだ居るの?」

「ちょっとずつ移動しているけどまだ近くで壊してるよ……」


(うわぁ……。)

 

新たな悪夢を見つけてしまった。状況を確認した今はここにいても何も出来ない……とりあえず戻らなくては。

あのマシンが最初に姿を現した位置は神社を出てすぐの住宅街……

たしかに、それまでに見た限りではそいつはそこから場所を変えている様子は無かった。

今まさにニオと繋がっている端末のスピーカーから、そいつが絶え間なく活動しているであろう散々な金属音が耳に伝う。ここからあそこ、そんなに離れていない距離で同型のマシンが二体存在しているということは、他の場所にも、延いては地球上にはもっと存在するかもしれない。

 

……それも数え切れないほど。

 

(恐ろしい推察は止めよう。落ち着こう。ひっ、ひっ、ふぅー。精神的に宜しくない。)


重たい生活用水混じりの邪悪な色をしたアスファルトに足をとられたまま僕はニオのいる神社の大木まで戻る……

 

びちゃり、びちゃりと、

まとわりつくヘドロと残骸により、一歩進む毎に足が重くなっている気がする。

このままだと移動するのにも一苦労だ。何か移動時の負担を軽減するような、「隠されしお助けアイテム」みたいな画期的に利用できるものはないか……と、僕は帰る途中の道端に綺麗なまま落ちていた葉っぱを何気なく一枚手に取った。

 

するとその葉っぱから細く煙が立ち、奇妙にもどろどろに溶けていった。


(!?)

 

「はっ、なんじゃこりゃ!」

「うぇあ!!溶けてんじゃん!すごいじゃん!」

端末越しのニオは初めてマジックを見た子供のように驚く。

 

葉っぱの下半分だったものが垂れて地面に向かって落ち、足下の

ヘドロと一体化していった。手には粘っこい緑色の跡が残る。

常識の通用しない世界を肌で感じ、ぞわりと腕から背中まで鳥肌が立つ。

「はい?!落ちていた葉っぱを触ったら溶けたんだけれど!?」

「ねぇ!もっとよく見せて!!というか早くこっちに戻ってよ!」

 

(なんで?どうなってる??)

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