第27話 ━変身━

そんな突拍子もないニオの発言によって心に一筋、道が開けたような感覚に出会えた。その発想は目の前で起きたことを繋ぎ合わせただけにも関わらず、自分一人では思いつかなかった気がする。そう思わされるほど途方もなく心が霞んでいた。

僕は足下に落ちていた石や葉っぱや木片をかき集めた。今一度その【僕の能力】とやらを確かめたい。そして泥団子を押し固めるように握る。

 

今までの僕だったら、自分がそんなこと出来るわけないって思っていたんだろう。

葉っぱが溶けたのだって、何らかの不具合で溶け始めれていなくて、僕が刺激を与えたからに過ぎないんだって……でも、何で今は……。

 

(胸を張った後に失敗するのが怖かったんだろ?恥ずかしかったんだろ?だから——)


もう一人の僕は僕をつついてきた。

 

(黙れよ!)

 

僕は考え方が変わったのか?

 

 

一つの塊となり、手の中でどろどろと溶け、奴の不着物と同じように歪む。粘土のように自由自在に形を変えることもできる。


(これならもしかするかもしれない。)

 

そんな兆しに気づいて、心が裏返ったかのように自信が湧き上がる。

(いつもそうやって、単純なんだよ僕は。)

 

「……やってみなきゃわからないか」

 

勢いのまま力強い一言、僕は立ち上がる。

なんだか僕らしくない。

少年漫画のような正義感のある格好のいい能力ではないのだが、

もう一度、僕たちの足跡の残るこの荒れた参道を通るつもりだ。

今度はこの手であれを壊すために。

端末を取り出そうとした——

 

「私も」

ニオが僕の肩に手をかけた。

 

「大丈夫なの?無理しない方がいいよ」

(その発言、ブーメランではないか?)

 

「今度は私もついていく。もしかしたら溶けていくかもしれないあれを間近で見てみたいし、何より正体を知りたい。」

と、お守りを服に仕舞い、木の根元に靴を脱ぎ捨てた。

 

僕らは再び粘っこいぬかるみの大地へと踏み出すことになったわけだが、それはそれは厄介な地質なのだ。足下に意識を集中していないと簡単に沈んだり転んだりする恐れがある。

時間が引き伸ばされているということを忘れそうだ——

悪夢に魘されているようなそんな進みの遅さだが、一歩ずつ着実に奴の元へと向かう。

ニオの手が僕の肩を掴み、しっかりと力が込もる。


「うわぁぁあ、私やっぱりこの感触苦手かもぉ……」

「わかる。何か粘っこくて、ぬるぬるしてて気持ちが悪いよね、いつか元に戻るのかなぁ……」

(極限状態になっても尚、僕らがこんな会話をしているのは、この世界があまりにも現実味が無くて、緊張感が薄まっているから。なのかもしれない)


近づくにつれて奴が家屋を壊す稼働音とその忌まわしき姿がたちまち大きくなっていき、比例して恐怖心が膨れ上がる。

いくら顔は平気を装えても心は嘘を付けない。

それでも奴の足元へと到着した頃には心は決まっていた。

出現してからそこまでの時間は経っていないからだろうか、奴の横に並んでいる塊のようなひどく歪んだ物体は元々の面影が全くない……なんて訳ではなく、その原型から辛うじて何らかの建物だっただろうということはまだ分かる。が、すでに無惨な姿になっていることは確かだった。


聳え誇るようなこの巨体をその下から見上げると大きさがよく分かる。

どうやってこんなものが忽然と現れたのか……未だ信じられない。

奴の足は鉤爪状で少しずつ内側へ滑らかな曲線を描くようにカーブしており、外側は黒い金属光沢が鈍く光り、内側は所々生きているかのようにじんわりと青白く点滅している。

そして見上げると付け根に関節のような可動部位が見える。

どうやら三つ足が液状化した建物に大地もろともしっかりと突き刺さり、鷲掴めるような構造になっているようだ。

僕ら二人が力づくで押しても人間如きのパワーでは全然足りず、びくともしないだろう。

 

狂っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る