第18話 ━未来━
「私たち、本部……というか学校から生徒一人一人にこの端末を配られているの。」
ニオが親切に順を追って伝えてくれそうだ。
「うん。」
取り出した端末は見覚えのあるそれだった。
(あぁ、その白いやつね。)
「それで、これをもう一つ繋げば、ビデオ通話できるのね」
(あー。)
「で、あなたに一つ貸すから……ニオのを。」
「私がぁ!?」
「ニオが彼の事を一番知ってるでしょ? 大丈夫だよ、嫌なの?……まぁこの際別に誰のでも良いのだけれど」
「ニオ……折れよう。」
……。
「あー、あー、おーい、聞こえる?」
「聞こえるよー」
「……よし、問題なく繋がったようだね。」
画面の中と同じ動きをしている皆さんを確認。
結局僕はニオからその端末を渡された。軽くて薄い。そしてひたすらに触り心地が良い。手に触れただけでも技術力がひしひしと伝わってくる。あと、了承済みと言えど人の物を触ることになってしまってなんだか申し訳ない。他人に所有物を触れられるのに抵抗があるという感覚は別の星から来た彼女らも同じなのだろうか。
なんとなく一方的に渡されただけだと申し訳なく思ったのだろう、「僕からはこれを……」
偶然ポケットに紛れ込んでいたお守りを手渡した。その行為に特に意味は無い。限りなく無い。単なる適当な思いつきである。
「?、何これ」
ニオは手に取り、それを眺める。やはり想像通り不思議そうな顔をする。
「御守りっていって、持っているだけでご利益っていう運とか縁とか導いてくれるやつ。心の気休めだよ」
と、僕の偏見まみれな用途の説明。心の底はそういうのを信じていないのがわかる。
「ふうん、なるほどね」
「良かったじゃん、記念に貰えるものは貰っておきなよ。」
「……曰く付きの物体。」
(この御守り、いつどうやって手に入れたんだっけ……)
ずっと前から見覚えがあるのに手に入れた経緯はすっかり忘れてしまっていた。
「じゃあこの後私たちは外に出て、キミに向けてさっきみたいにビデオ通話を繋げるから。キミはそこにいて私たちと一緒に景色を見てその情報を解説してくれるとありがたいなぁって。」
僕は何よりもまず信頼して欲しかったので
「任せろ」
と一言送る。
それからはニオに端末の簡単な操作を教えてもらう。端末に表示されている並んだ文字列は全く見たことの無いものだったが、ほのかにニュアンスが伝わるような感覚がある。今までの認識とは違う、けれども記憶の片隅にいつの間にかあったかのように、何故だか僕は無意識に読めると思って読んでいた。
彼女らとの会話と同じようにこれもシステムの影響を受けているのだろうか。画面の基本操作は僕らのスマホと似ていたが——
「あえ!?感触がある!」
「そ、そこに驚くんだ……へぇ。」
僕の反応に対して意外だったのだろうか。
(なんだよ、さっきのようにきゃっきゃうふふと喜んでくれたっていいじゃないか。)
どうしてか理由はわからないが、今回は少し冷められてしまった。
画面に映し出された知らないアイコンには一つ一つ確かな凹凸とその感触がある。触れている箇所によって違う手触りが用意されているのだ。僕らのスマホとはそこが決定的に違っていた。本体は平な板なのに……無いものが有るような錯覚に狂わされているような、いい意味で気持ち悪い。
「あれすればもっと驚くんじゃない?」
「……端末を囲うように縁をぐるりと指でなぞってみてよ。」
「こう?」
言われた通りに指を——
「消えた?!」
端末が消え、画面だけが浮くように残る。
「未来じゃん!」
顔を上げ、皆と顔を合わせる。言わずにはいられなかった。
「……地球外の科学の力。」
前言撤回。こいつはスマホとは全然違う代物だ。
(そうそう、これこれ、こういうのが欲しかった!CGじゃなくて本物だ!現実で見ると百倍は興奮する。)
「で、私たちと通話をするのはここを押して——」
素人の僕に説明を終えたニオたちは外に出る準備をし、この喫茶店から出て行く。なんとなく操作のわかった端末はすでに彼女によってビデオ通話中になっていた。位置こそ離れたがこれでお別れでは無い。
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