第17話 ━例外━
「えぇと、じゃあ僕を止まっている、いや引き伸ばされていない元の世界に戻すことは……?この外にいる僕以外の人間と同じようにさ」
今度は藁にもすがる思いで尋ねた。有りの儘の真実を告げられ、いつしか僕はカフェの席で窮地に陥っていた。
「その件については……この事を本部へ説明すればマシンのデータからあなたが効かなかった原因がわかるかもしれない……としか言えない。私たちは見学の最中で、今の段階ではまだ本部とのやりとりが出来ないから。」
「……無力。」
俯きながら寂しそうに話すノーザとロロニの姿。なんだか申し訳なくなった。
「でも、原因が分かればこの計画のエラーを解消し、あなたを元通りの世界の一員にできるかもしれない。……きっと」
(五十年間もこんな壊れた空間で再び動き出すまで隠棲するなんて到底できる訳ないので不確定だろうと、一筋でも可能性があるなら是非ともお伝え願いたい。)
「五十年間に及ぶ長期間の調査だけれど、言った通り私たちはあくまでも授業の一環で来ている学生だから、他の研究者さんと違ってこの星に滞在できる期間は……その内の十日間なの。」
「うん、うん。」
(十日間、思ったよりも期間は短いな。以降は彼女らと会えなくなるなら、尚更この世界のままは勘弁だ。)
「もちろん、あなたを見捨てるつもりはない。ごめんだけど、今は私たちだけだから、あなたをどうすることもできない。」
少し前まで僕は本日より世界から解放されたと思って喜んでいたのだが、たった今この話を聞いて自らの境地を知ると、むしろ世界に囚われているように思えた。
まるで井の中の蛙になった気分だ。
大きな海の噂を聞いてしまった。
もっと見えていない世界を疑うべきだった。
まぁ、結局蛙にはどうすることは出来ないけれど。
「だからこの十日の間で、なぜあなたが効かなかったのかを」
——確認する必要がある。
「心配するな、こっちも体験データとレポートを送る必要があるからそれまでには本部と繋がるようになるから。」
「焦らず……その時まで。」
「マシンが今後正常に動作すれば、そのときあなたは調査開始から今までに見た光景や感じたことは記憶から消失し、もといた場所で……ただの日常の内の五秒間を過ごすことになるはずだね。おそらく。今まで通り。」
(うーん。この体験の記憶がまっさらに消えてしまうのはもったいない。けれどもこれから五十年間という人生の半分以上が代償ってよりは……致し方なくここまでのセーブデータを消した方がいいのかもなぁ)
“このときの僕は「とても大切なこと」を忘れていた。”
「でもさっきも言った通り、私たちはあなたが戻る前にこの星について調査してまとめるのが課題だから、ついさっきここに着いて始めたばかりで聞きたいことが山ほどあるんだよ……。」
「そうそう、そういうこと。」
「未知の世界……」
(どんとこい、これまで地球で生きてきたんだ、教えられるものを教えてやる!知らないものは調べてやる!)
「そうだよね、調査に来てたんだよね、いいよ。僕でいいなら教えてあげる」
快諾。僕は断る理由を探しても何一つ見当たらなかった。その分、もといた日常に戻る前にこの変な世界を楽しむことが出来る時間も増える訳だ。
「でも、どうする?僕は今までの日常に戻りたいけど、報告ができるようになったとして、取り残された僕の事を例外だと伝えるのは僕が君たちの調査の協力をした後にしたいんでしょ?」
ここで相手の都合を確認した。ここで言い淀まなかった自分を褒めたい。
「まぁ、そうなる。」
「全くもってその通りだね」
「教えるにしても、僕と一緒に同行しないとこの星のそれが何なのか、何の為に存在するのか伝えられないよね?この待ち合わせに来るのも大変だったのに、君たちのお仲間さんがいるところを見つからずに地球を案内や紹介するってのは無茶なんじゃない?」
「いやいやそんなことはぁ、ない」
(僕は喫茶店に皆が集まっている今、その件について皆とゆっくりと考えるはずだったのだが、一足先に考えられていた。ありがたい。これには期待して良い予感がする。)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます