第16話 ━真実━
僕にとっては随分と手に負えない様な——そんな話。
現実のようでどこか現実じゃないような奇妙な感覚がずっと付き纏ってきた。
流れを堰き止めてしまった申し訳なさの中、僕はまず、
「君たちはどうやって僕らの言語を習得したの?それも何気なしに流暢に喋っているけれど。」
と聞いた。忘れてしまう前に。
この事は本当に気になっていた。僕の話す言語に対し、不可解にも自然な受け答えをするニオ。そんな彼女と当たり前のように何度も会話をした後にこの事実に気づき、“そういえば……どうしてだ?”という違和感がずっと脳の隅にへばりついていた。
「いや、話してはいないけど。」
ビストが差し挟むように、僕の疑問をきっぱりとあしらう。
(???)
「えぇっと、あれなんだっけ……乗ってきたマシンのなんとかってシステム。」
ノーザがニオ達になんだかあやふやな事を聞き始めた。
「あー、そうそう。β(ベータ)?だか、δ(デルタ)?だか……あれに搭載されてるって、ここに来る前に先生が話してたよね、すっかり忘れたけど……」
「覚えにくい名前……」
「ともかく地球のどこかにある、マシンのシステムが私たちの発した言葉を電波塔なんかと似た役割を果たして私たち一人一人と送受信をする。その見えないシグナルのやりとりで私が自分の言語で話しても、あなたの脳では音声とか口の動きとかが、あなたの違和感がなくなる様に今この瞬間も上書きされている。そんな感じで私たちがあなたの言語で話しているように聞こえるんだ。」
「はぁっ!なるほど?」
(はぇー、こんにゃくを食べなくてもその機械のおかげでリアルタイムで自動翻訳しているわけだ。)
僕は非日常が日常に溶け込んでいるこの環境に気をとられて彼女らが僕らの言語を話すという基本的な違和に気づけなかった。気づいてからはとても変な感覚を抱いていたのだけれど。
「そのマシンは言語の他にも範囲内の重力や気温や天気などの空間への作用、生命体それぞれに適した睡眠や食事や排泄などの生命活動への作用の調節をしているの。今こうやってこの星で私たちが不自由なく活動出来ているのもそれのおかげなわけ。」
「ありがとう……覚えにくいマシン……」
「……すげぇ。」
さっきから短い感応しか出せていない僕。
(その最強に都合の良いマシンで僕を含むこの世界が管理されているってことか。一体どんな仕組みでどんなエネルギーを使っているんだ?なんだかすごく感慨深いな。)
聞けば聞くほどロマン溢れる異星のテクノロジーのことが気になりつつ、
「じゃあ、いつまでこの世界の時間は止まっているの?」
と僕が訊きたかったことリストの流れに沿って、二つ目の質問を率直に訊く。
「確か五十年間だったよね」
「うん。五秒間を五十年に引き伸ばすって、先生がこの前の授業で言ってた。」
「え」
(引き伸ばす!?五十年も?てことは本来の世界で一秒後は、僕にとっては十年後……終わったわ……)
永久ではないにしろ、自分が五十年もの歳月をこの世界で過ごせるとは思えなかった。おまけに彼女ら以外の誰にも気付かれずに、という条件もくっついてくる。あり得ない。このままでは何も残らない枯れ果てたお爺さんへ向かう未来が約束されてしまう。
どうやら世界は凍てついた様に完全に止まっている訳ではなく、時計の針はごく少しずつ動いているらしい。異星人による謎の技術によって簡単に世界の理をねじ曲げられた。今までずーっと嫌になるくらいに等速運動をしていたのに。僕はこの事実を前にどうしたらいいのだろう——
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