第13話 ━居場所━

「それで、この人が例の?」

襟巻きの子がそわそわと待ちきれなさそうに本題に迫る。内々の空談になると思いきや、だ。

「そうそう。例外の……」

「ああ、どうもです」

話題に触れられた僕は初対面の方達にわかるかわからないかぐらいの会釈をする。どこか居心地が悪そうに。

 

「にしても、不自由なく動けてそうだよね。どうしてアレが効かなかったんだろうね」

「ね」

「他にもこんなケースあるのかな?」

「あったら絶対に中止だなこれ。」

(うーむ、アレが効かなかった?とか絶対に中止というのはどういうことだろう。例外と言うからには僕に何かしらの問題があるのだろうか。)


とりあえず今は無駄に喋らず、耳を傾けて皆の口からこぼれ落ちてくるヒントを待つことにしよう。何かを聞かれるまで極力無言を貫くつもりだ。決して自分から会話に加わる勇気がない訳じゃない。膝に手を置き、背筋を伸ばす僕を置いて会話が進んでいく——

 

「どうする?この人には罪は無いけど本部に伝えた方がいいんじゃない?」

「いやまだ止めとこうよ、交流を深めてこの地の事をひたすら教えてもらうんだよ。万が一バレても成り行きを向こうに説明すれば……結局私たちには罰則は無いし……中止は避けたい」

「あー、確かに!ここって本当に聞かなきゃ分からなそうな物だらけで意味不明だもんな、その考えは一理ある」

「というか、いきなりこっちに着いてどう思った?すごくない?あっちと全然環境が違うのにさ——」


(あー、僕の存在により僕の分からない話し合いが進んでいく、でもこういうのは嫌いじゃない。)


「でさぁ、私たちのことはどこまで伝えるべき?」

と、彼女が友人らにさりげなく聞いた。

「うーん、ざっくりとは伝えた方が彼も協力してくれるよね。でも、私たちからの情報開示は必要最低限が良さそう——」

 

 ……

 

察することに定評がある僕は彼女らが個々の意見を巧みに汲み取り一つにまとめ、練り上げ、調整し、綺麗に結論として形作っていくのがわかった。

 

 この緻密な流れが容易く行われているのだ。

 そんじょそこらの友人関係では無い。

 言うなれば達人同士の域——


「突然で困惑してるだろうけど、私たちはあなたに伝えたいことがたっくさんあるの!そしてあなたにも学校やここで教えてくれたように、私たち四人にこっちの事を色々教えて欲しい。少しの間だけだからさ、差し支えなければこれから協力してもらえない?」

 

皆が再び僕の方を見つめる。期待の眼差しってやつを人生で初めて向けられた気がする。

それを言われた直後に僕は、「わかった!全力で協力させてもらいます!よろしくお願いします!」と、衝動的に言ってみせた。久しぶりの餌に食らいつく魚の如く。変に声を張りすぎたか?でも嘘偽りなんて無い。

 

「良かったぁ。本当にありがたいよ」

「あぁあ……!助かる。」

僕の思いが伝わったのか、このテーブルにあった緊張感が溶け、落ち着いたムードになった。これで一安心……と言いたいけれど、君たちの唯一の参考資料がこの僕でいいのだろうか? 

 

(……というか僕が彼女らの前でしっかり言葉を発したのはあれが初めてでは?うわぁ、アクセル踏みすぎたかもなぁ。)

 

「えへへ。ねぇ!この星の人達と顔を合わせて意思疎通したのは私たちが初めてじゃない!?」

心が抉れていく僕のことなど露知らず、対話が成功した事を嬉しそうに語りかける彼女の友人。そして彼女達の正体は地球外から来た「異星人」なのだろう。頭の中で提唱していた仮説がようやく確信に変わり、そんな違う星から押し寄せた人達とファースト異文化交流までしてしまった。

 

「いや、それは……」

うってかわって答えにくそうに遮る彼女。

「あぁっ、そっか……ごめん。」何かに気づいたような友人達の反応。悪気はないようだ。

「ううん、大丈夫。気にしないで」

彼女がらしくない感じで誤魔化す。この意味深長な反応は後々地雷を踏まないように覚えておくべきなのかもしれない。

 

兎にも角にも、なぜ自分がこんなことになったのか、彼女たちはどういう存在なのか、支離滅裂な状況を繙きたい僕は協力的に応え、振る舞う他なかった。なにより見ず知らずのどうしようもない僕を異星人の皆が必要として明るく接してくれたのが心から嬉しかった。確かな居場所が広がった気がした。 

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