第12話 ━未知━

これから僕は見たこともない種族たちに、初めて入ったこの喫茶店で囲まれてしまう。未知との遭遇にしては特殊すぎるシチュエーションに震えているが、今回は彼女たちへの興味の方に軍配が上がる。ようやく「彼女」の「人間ではない何か達」の正体が判明する——かもしれない。

 

進行形で胃が痛んでいる僕に構わずその時はやってきた。

 

「やっほー。」

彼女の気さくな挨拶、特に意外ではない。

「おいすー」


(——えっ。)


友人達もそれに対して関係性が想像できる返事、思い描いた通りに席についてくれた。顔つきや仕草を見た限りでは、お三方は女性らしく思える。まだ判断は早いか。

僕はてっきり彼女が友達と呼んでいる人たちは同じ種族の方たちなのかと思っていたが三人共々姿がまるきり違う。個体差とは考えにくい、多分それぞれ別の種族なのではないか?


(こんなに見た目が違う組み合わせで友達なのか、差別のない世界って素敵だなぁ。)

 

座りながらに店内を一通り見た皆さんが今度は僕の方をじっくり見る。動いている僕がそんなに異風なのだろうか、勘弁してほしい。彼女はなんだかフレンドリーだったけれど、変なことをされないかな?と、場違いな僕は肩を窄めている。

 

友人お三方の見た目を気にされない程度に観察……

じろじろ見るのも目を合わせないのも良くないのはわかっている。

うーむ、こういう時は、どう眼球や目蓋を動かすのが正解なのだろうか。

 

 ——まず、向かい合う席の僕から見て左側の方、肌が青を基調とした心地よさそうな毛で覆われていて、継ぎ接ぎのような斑ら模様が目立つ。そして彼女より少し長いさらっとした綺麗な黒髪。メタリックな歯は鋭くて牙に近い。瞳は青白く爬虫類のよう。おまけにふさふさの尻尾らしきものが生えている。

 

 ——続いて中央の方、奇怪まみれのこの集団でも逸出した異彩を放っている。真っ白な体でメカっぽいし、特に顔は人形っぽい。それでいて柔軟に動いている。上半身は半透明のケース状で液体が詰まっている感じ。さらにその内側にはコアのような球体が色を変えながら浮かんでおり、その周りに神経のようなものがめぐっている。

 

 ——最後に右側の方、肌は明るい緑色。顔はより白っぽく、艶のせいか仮面のようにも見える。紫色の大きい瞳の下に深緑のライン模様が入っている。襟巻きみたいなうねうねした器官が首にあって、髪の毛はカールしていて太く触手みたいだ。先端に行くにつれてグラデーションしている。

 

やっぱり知らない世界の方達の姿は独特。その説明ともなると文章だけで伝えるのは限界がある。是非とも合ってその属性マシマシの異質な姿を目の当たりにしてほしい。

いずれにせよ皆さんにはそれぞれ、手足があって、耳、目、口が同じ位置関係にあって表情が存在している。服らしき何かも着ているし基本的な体格的構造は人間と変わらない気がする。これが収斂進化の恐ろしさか。知的生命は未知の世界で誕生しても進化によって似てしまう運命なのかもしれない。そんなことが分かり、姿は違えど、どことなく親しみやすさを感じた。

 

時間の止まった喫茶店。そしてこのテーブルを囲んで僕を含む全五種のそれぞれ別の種族達が座っている。心の中で汗が噴き出る僕。この店の歴史の中で未だかつてこんな出来事があっただろうか? こんな不可思議なことが起こるなんて喫茶店側も思いもしなかっただろう。

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