第6話 ━輝き━
暫くその奇妙な光景を座りながらじっと見ていると、彼女が振り向き僕の方へ向かってきた。
「まぁ、このことをあのサポートセンターに書き込んでもどうせ「よくわかりません」って返されるんでしょ。はぁ。」
(——?)
と、何かしらか応答が無かったのか、端末を服にしまいつつ僕の目線に合わせるように屈んだところでそれを言い終える。二度と口を利いてもらえなくても仕方ない、なんて覚悟をしていたのに。
返す言葉は見当たらなかった。というより彼女も独り言のつもりで言ったのだろうから特に何も返さないのが正しいはずだ。
「うーん、あの人たちも忙しいだろうし……そもそも繋がるか分からないし、ここじゃあ何も出来ない。うわぁ、どうしようね……」
(——出会って間もないのに堂々と相手に距離を詰めていくこの感じ、コミュ力高そう……)
状況把握が追いついていない上の空の僕はそのくらいペラペラな感情を抱くしかなかった。
続けて彼女は、
「あ、そういえば、なんで殺されると思ったの?この私がキミを殺すとでも?」
と、急に顔が近くなる。純粋な疑問を訊くような言い方で、僕に対してよく思っていない感情はそこには無かった。
——さてどうしてだろうか。体感したことのない恐怖と、未知の生命体が襲来するファンタジーによって刷り込まれた記憶が直感的に結びつき、働いたのかもしれない。
僕は
「すいません……なんとなく、そんな気がしたから」
と返す。
〜取ってつけたような苦笑いを添えて〜
「あぁそう。はぁ、次はキミのことを友達に伝えてみる。キミが殺されることは多分ないと思うから安心せい。元気出しなよ。」
そう言われ、僕の左肩にそっと手が添えられた。
(——っ!安心できるかよぉ!!?)
とは思いつつもこんな僕に気さくに接していることに関しては安心した。
(初対面でこんなに友好的なことがあるのか……?)
(彼女は僕らの存在を知っていたのか?)
(そもそも信用していいのか?)
(警察呼びたい……無理か。)
再びあの端末を取り出して、それに指をかける彼女に伝えたいことや聞きたいことは吹きこぼれるほどあるのだけれど、会話の途中で質問はしたくないし、漫ろに逃げ出しても行く当てがない気がするのでここは堪え、彼女の判断に従う。
(友達に伝えるって一体これからどうなるんだ、この状況……全く分からない。)
「あと、この「星」ではどういうところで人と人が待ち合わせるわけ?ほら、例えばキミが——」
彼女とその友人らしき人物との通話の途中でこちらに一本矢が飛んできた。それはもう予告なしに。
「星」という一際輝いているワードに違和感を覚えたが、それ以上に僕は聞かれることが想定外。かつ、脈絡のない質問だったので咄嗟に
「あぁ……と、駅前の喫茶店とかかな?」と答えた。
(本当に突然話を振るのをやめてほしい。寿命が減るのはもちろん、僕は回答としての最適解を導きたいから、もっと考える時間をくれ。こんな状況下なら尚更だ。)
ぼーっと考え事に気を取られていた僕はそんな風に言い分を並べてみた。
……
ほとんど音の無い中で彼女の声が薄れていく。残念ながら僕はここまでで考えるのを諦めてしまったのかも知れない。どうにでもなってしまえ……と。
「ふぅん、よくわかんないけど——。あぁ!聞こえ——」
彼女のその後の喋りぶりを見るにどうやら本気でこれから友人達に会いに行く、そしてその待ち合わせ場所が僕のお告げで「駅前の喫茶店」になったらしい。
そのときの僕は「当然のように僕らの言語を話す彼女」に対する違和感を見落としていた。
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