ロボの父 1

 目を開くと、穏やかな灰色の瞳があった。


「良かった。気が付いた」


 大丈夫か? 何処か痛いところないか? 気遣わしげなラウドの声に首を横に振る。ラウドが、生きていて良かった。それだけが、嬉しい。ようやく見慣れた図書室の高い天井が目に入り、ロボは少し目を細めた。


「あの時、君が『古き国の騎士の血と力』で『悪しきモノ』を祓ってくれたからさ」


 熱は無いようだな。ロボの額に冷たい手を当てながら、ラウドが笑う。ロボが『悪しきモノ』を祓った後、子供のラウドは自分の居るべき時代へと戻り、そこでたまたま地下牢に閉じ込められていた幼馴染みに助けられたそうだ。


「だから、歴史は変わらなかった。リヒトの話だけどな」


 後ろにいるらしいリヒトの方を向いてから、ラウドが再びにっこりと笑う。ラウドの不敵な笑みは、いつも通りだ。思わず微笑む。ロボの目の前のラウドは、見た目こそ普段逢っていたラウドと変わりなく小柄で若かったが、瞳の色には確かに大人の、落ち着いた雰囲気があった。幾つの、ラウドだろう。ベッドに乗せられた左腕の傷の多さで確認する。おそらく、ライラが言っていた、心に蟠っていた新しき国に対する憎悪と誤解が解けた、普段会っていたラウドよりもう少し年上のラウドだろう。ロボはそう、判断した。


 そして。


「お母さんの話はしたから、今度はお父さんの話をしようか」


 不意に、ラウドが真顔になる。手紙に書いてあったことを、言うつもりだ。ロボの喉がごくんと鳴った。しかし、……もう、聞く必要は、無い。小さい頃、ロボを助けてくれた、椿の留め金の本当の持ち主は、おそらく。


「良いんです、ラウド。もう、その話は」


 だからゆっくりと、首を横に振る。


「俺の父親は、あなたです、ラウド」


 ロボの言葉に、ラウドの表情ははっきりと分かるほどに固まった。


「は、い?」


 しばらく経ってからやっと、ラウドは開けっ放しだった口を閉じる。


「い、いや、ロボがそれで良いんなら、俺は別に良いのだが……」


 弱ったな。小さな呟きが、ロボの耳に響く。しばらく悩んだ顔をしてから、ラウドはしっかりとした視線をロボに向けた。


「ロボがそれで良いのなら、良いが」


 そして扉が開く音に顔を上げながら、ラウドはただ静かに言った。


「君の今後の為に、レイ達には本当のことを話すよ」


 再び、喉が鳴る。レイとルージャ、そしてライラが視界に入る前に、ロボはラウドに向かって承諾の印に頷いた。

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