結局のところ、助けてくれたのは

 背中に触れる石床の冷たさも、酷く何度も殴られた身体中の痛みも、感じない。


 天窓から入ってくる僅かな月明かりに照らされた、所々黒く汚れた石壁を、ロボはただ、呆然と見詰めていた。第三王子を刺したことも、自分が明日処刑されることも、今のロボには他人事にしか思えない。自分は、ラウドを、恩人を死なせてしまったのだ。そしてその結果、静かに慕っていた少女や、大切だと思い始めた人々をこの世界から消してしまった。自分の死、くらいでは、償うことなどできはしない。罵倒されても、殴られても、だ。涙すら、出ない。無力感だけが、ロボの身体を支配していた。


 ロボが刺した、『悪しきモノ』に深く魅入られていた第三王子の首を刎ねたのは、ラウドだろうか? ふと、その思考が脳裏を過ぎる。それならば、嬉しいのだが。ラウドが生きているかもしれないという、希望になる。だが、……ロボが見た、あの透明な瞳の色は、ラウドのもの、だろうか? ぼうっとした頭で、ロボがそこまで考えた、丁度その時。


「……ロボ」


 聞こえるはずのない声が、耳を打つ。はっとして顔を上げると、床に開いた空隙から、濃い色の髪に彩られた不敵な笑みが見えた。


「ラ……」


 彼の名が、出て来ない。どうして、彼がここに? 戸惑うロボには全くお構いなく、ラウドはその小柄な身体には似合わない力でロボの身体をひょいと抱き上げるなり、音を立てぬ軽い足取りでロボの身体を牢から地下通路へと下ろした。


「『悪しきモノ』の影響が、有るようだな」


 早く廃城へ戻ってライラの手当を受けさせなければ。地下通路を走りながらのラウドの言葉が、ロボをほっとさせる。ロボを支えている、ラウドのしっかりとした温かい腕に、ロボの意識は安堵の闇へと吸い込まれた。

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