小さなラウドを探す

 その、次の日。


 ロボは副都周辺の、副都と第三王子の領地との間に広がる森の中を一人でうろうろしていた。


「ライラの件は、第三王子はこれ以上追わないだろう」


 あいつはプライドの塊だからな。廃城の図書室での嘲笑うようなレイの分析に、頷く。と、すると、獅子の痣を持っている者を追っている第三王子が狙うのは、ロボ自身と、そして。


「しかしロボに関しては、第三王子は更に躍起になって動くと思うよ、レイ」


「そうだな」


 ならばロボは当分図書室に閉じ込めておけば良い。リヒトの言葉に頷いたレイに、ロボは思わず声を上げた。


「ラウドが、いる」


「ラウドなら、自分で対処できるだろう」


「違う」


 まだ幼い、子供のラウドが、時折副都と第三王子の領地の間にある森の中に現れる。そのことを、ロボはレイとリヒトに話した。


「それは」


 ロボの話を聞いたレイが、唸るように黙り込む。第三王子に手を出すのは、できれば避けたいのだが。何時になく弱気なレイの小さな声に、ロボは唇を噛みしめた。しかし一介の騎士見習いであるロボに何ができるだろうか。王位継承権が無いとはいえ、相手は王族なのだ。古き国に繋がる者が新しき国の王族を弑すれば、古き国と新しき国の間に新たな争いの種が産まれる。その争いが、ロボの大切な人々を、ライラを殺さないとも、限らないのだ。そのことも、今のロボは理解していた。何もできない。それは、分かっている。……だが。自分の力の無さが、ロボは悲しかった。


「とにかくここに連れて来て、しばらく面倒を見る他無いだろうね」


 記録片が身に付かないラウドのことだから、それでどのくらい保つか分からないけど。そう留保を付けてのリヒトの言葉に、レイは少し考え、そして頷いた。


 そのレイの指令を受けて、ロボは今、森にいる。しかし、良かったというべきか、夕方近くになっても子供のラウドを見つけることはできなかった。おそらく、先だってロボが記録片を見せて忠告したことを、ちびラウドはしっかりと守っているのだろう。あの素直な子供がどこをどうすればあそこまで不敵な笑みを浮かべる大人になるのだろうか? ロボは首を傾げつつ、廃城へと戻った。


 だが。


「……あれ?」


 ライラの姿が、見当たらない。ライラだけでは無い、ルージャの姿も、レイの姿すら、無い。あるのは、あちこち崩れかけた空間のみ。出掛ける前には見掛けた、ライラやレイに仕える他の騎士達の姿も、何処にも見えなかった。皆、副都の詰所の方だろうか? いや、第三王子の件があるから当分ライラは廃城に留め置くと、今朝レイは確かに言っていた。それに、まだ足が痛むと言っていたルージャが、ライラを置いて副都の詰所の方へ行くはずがない。と、すると、……まさか。嫌な予感に囚われ、ロボは図書室の扉を開けた。そこにライラが居れば、それで良い。


 だが。図書室の、天井まで届く本棚がほぼ空になっている光景を目にし、ロボの不安は全身の震えに変わる。そして。


「ロボ」


 唇を引き結んだリヒトの、青白い顔に、ロボは全てを察した。ラウドが第三王子に捕らわれ、歴史が変わってしまったのだ。


 くるりと、リヒトに背を向ける。そしてそのまま、ロボは廃城を飛び出した。

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