ロボの父親?

「ラウドさん、少し穏やかだった」


 廃城の図書室の片隅で計算に四苦八苦するロボの横で、ライラがルージャに話している声が聞こえる。


「長年の誤解が解けた、って、そう言ってた」


 新しき国の王宮を脱出する際、ロボとライラは別々に、古き国が新しき国に滅ぼされた後の、ラウドがレーヴェに囚われていた時代へと飛ばされてしまった。それが、ライラが突然いなくなったり、ラウドがロボを羽交い締めにしたりした、大元の原因。ロボより少し前の時間に飛ばされたライラはすぐにラウドに助け出され、一晩ラウドの部屋に匿われてから、王宮の裏手にある脱出口から魔法を使って飛び降り、王宮からの脱出を果たした。そしてラウドの部屋に匿われている時に、ライラはラウドから、ラウドと母は新しき国の王宮を追い出されたのではなく、レーヴェによって大怪我を負ったラウドの身を案じた母が、身重の身でラウドと共に王宮を自主的に去ったことを知ったと聞かされたらしい。王都から廃城に帰る時にライラがロボとレイに話してくれた話を、ライラはルージャに語っていた。勿論、一人離れて本を捲っているリヒトも、ライラの話に耳を欹てている。


「と、すると」


 ライラの話を聞いたルージャが、ゆっくりと息を吐く。そのルージャの言葉の続きを、リヒトが話した。


「歴史に『もし』は言いたくないけど、もしもラウドのお母さんが『残る』という選択をしたとしたら、ラウドは統一の獅子王レーヴェの片腕として、古き国の女王を弑していたかもしれないわけだね」


「ラウドが敵かよ」


 リヒトの言葉に、ルージャが苦笑いを浮かべる。


「絶対戦いたくないな。勝てる気がしねぇ」


 確かに。その点に関しては、ロボもルージャの言葉を肯定する。どんな敵も冷静に屠る剣の技、そしてどのような苦境も不敵な笑みで対処する気力。それだけ考えても、ラウドは敵には回したくない。


 そして。ポケットに手を伸ばし、椿の留め金に触れてからポケットの中のもう一つの物体、折り畳まれた羊皮紙に触れる。


「これ、ラウドさんからロボにって、預かってきたの」


 ライラの無事を確認してからすぐに、ライラから渡された羊皮紙には、ただ一言が書かれていた。


「君の父親について、推測できた」


 父親。この単語が脳裏に浮かぶ度に、怒りとも震えともつかない感情が湧き上がる。母を一度だけ抱き、そしてその後を顧みなかった父親のことなど、知りたくもない。それが、現在のロボの正直な気持ち。父親の件で第三王子に踊らされ、ラウドに大怪我を負わせてしまったのだから、当然だ。だが、……知りたいと思う気持ちが心の奥底にあることも、確か。父には、母に謝ってもらいたい。そして、その後は。想いを振り切るように、ロボは首を強く横に振った。自分に、幸せは、似合わない。そう、思う。


「何をのんびりしている」


 不意に、鋭い声が図書室を震わせる。


「仕事はたくさんある。サボるな」


 顔を上げずとも、レイが怒った顔をしていることは容易に推測できた。


「まだちょっと、足が……」


「手は元気だろう。書類作成が嫌なら武具の手入れをしろ」


 言い淀むルージャにレイの怒声が被る。


 その言い合いに、ロボは思わずにやりと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る