王都に辿り着いた後

「本当に、獅子の痣を持っているのか?」


「はい」


 ロボが手渡したリールの手紙から顔を上げた、第一王子クロードの青ざめた顔に、頷く。


「その為に、第三王子に狙われているというのか」


「はい」


 第一王子の再度の問いに、ロボはもう一度、静かにこくんと頷いた。


 王都の城壁内部にある、第一王子の館に辿り着いたロボは、早速第一王子に面会し、リール騎士団長からの手紙を第一王子に渡した。一介の見習い騎士に、王の後継者である第一王子が会ってくれるかどうかが気掛かりだったが、第一王子は気安く面会に応じてくれた。そのことに関しては、ロボは心からほっとしていた。


 第一王子の住まうこの館は王の後継者に相応しく、地味であるが落ち着いた雰囲気を持っている。再び手紙に目を落とす第一王子を見てから、ロボは第一王子の執務室をぐるりと見回した。


「リールの頼みなら、仕方無いな」


 しばらくして、再び第一王子がロボを見る。


「第四王子に付ける。しばらく、ここにいなさい」


「ありがとうございます」


 ここなら、第三王子も手は出せないだろう。第一王子の言葉に、ロボは頭を下げた。


「しかし、ジェイリにも困ったものだ」


 リールからの手紙を手にしたまま、第一王子が呆れたように息を吐く。


「何をしても、王位継承権は自分のところには来ないというのに」


 おそらく、母親が王の正妃であることを笠に着ている部分があるのだろう。リールがロボに言ったのと同じ言葉を、第一王子は呟いた。しかし王位継承権を持っているのは、崩れかけているとしても獅子の痣を持つ、病気で亡くなった前の王妃の息子である第一王子と、第一王子の乳母であった者の娘が王の目に留まった結果産まれた第四王子のみ。獅子の痣を持たない第三王子は、例え隣国王家出身の正妃の口添えがあったとしても、新しき国の王にはなれない。だからこそ、第三王子は獅子の痣を持つ人物を躍起になって捜しているのだろう。そこまでは、第一王子の結論もリールの結論も、そしてラウド達の結論とも一緒だった。違うと、すれば。


「獅子の痣を持つ者を見つけて、何をするつもりなのか」


 そう言う第一王子の口の端が、憎しみに歪む。


「おそらく、いたぶりたいだけなのだろうな」


 第一王子の言葉に、ロボははっと胸を突かれた。確かに、獅子の痣を持つ男子を見つけ、王の隠し子だと偽っても、第一王子と第四王子がいる。そう簡単に、第三王子が操ることのできる王が誕生するとは思えない。


「あいつは昔、第四王子を苛めて殺しかけた」


 第一王子の小さな呟きが、ロボの耳を打つ。


「目的無く嗜虐する。それが、あいつの性だ」


 全身が震えるのを感じ、ロボは思わず目を閉じた。異母弟でさえ、残酷に扱うのだから、赤の他人であるロボや、あの子供をどう扱うかは、すぐに分かる。


「大丈夫だ」


 不意に、温かい手が、ロボの背に触れる。


「リールの、異母弟の頼みだからな」


 子供の生存率が低いので、新しき国の王は正妃と副妃、二人の妃を娶るのを慣習としている。訓練所の騎士団長であるリールが、副都の太守の家から嫁いできた副妃の息子であることを、ロボはこの時初めて知った。


「リールにも、獅子の痣は無いからな」


 穏やかな性格のリールは、王都の権謀術数には向かない。そう判断した王が、副妃が病気で亡くなった時にリールを副都の太守へ託した。そう、第一王子はロボに話してくれた。このことを知る者は、少ない。リールも嫌う話だから、なるべく誰にも話さないで欲しい。第一王子はそう、話を付け加えた。おそらく、獅子の痣を持っているということで、特別扱いで秘密の話をしてくれたのだろう。信頼には、答えなければ。


「分かりました」


 だからロボは、第一王子に向かってこくんと強く、頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る