いきなり現れる騎士

 どれくらい、そうしていただろうか? 腹をくすぐるような美味しそうな匂いに、ロボははっと身を起こした。


 最後に意識があった時には焚き火の周り以外真っ暗だった空間が、少しだけ明るくなっている。いつの間にか眠ってしまったらしい。身体に掛けられていたらしい、ロボの青色のマントが薄明るい地面にはらりと落ちた。そういえば、ルージャの怪我は、大丈夫だろうか? はっとしてルージャの方へ伸ばしかけた腕が何か熱い物に当たり、ロボは思わず手を引っ込めた。


〈……何だ?〉


 ほぼ灰になった焚き火の傍の、僅かに銀色に光る物に、手と顔を近づける。触れられないほど熱いその塊は、小さな蓋付き鍋。その鍋の蓋を開けると、少し濁ったスープの中に大きな肉の塊が束ねた香草と共に浮いているのが見えた。兎のスープだ。美味しそうな匂いの源は、これだったのだ。そう言えば、昨日の昼から何も食べていない。ロボは傍らに置いてあった木のスプーンを掴むなり、肉の塊にかぶりついた。


「俺にもくれ」


 掠れたルージャの声に、はっとしてスプーンを置く。振り向くと、昨日より顔色が良くなったように見えるルージャが、ロボを見て苦笑しているのが、見えた。


「お前ずーっとぐっすり眠っていただろうが」


 ルージャの言葉に、思わず下を向く。ルージャによると、ロボが眠っている間、時々小さな影がルージャの世話をしていたらしい。おそらくあの少年だろう。良心の呵責を覚え、ロボは重い溜息をついた。


 小鍋の中のスープをルージャと分けてから、今後のことを考える。ルージャの為に助けを呼びに行きたいのは山々だが、ロボ一人では第三王子の部下達に襲われた時の対処ができない。


「このまま、レイが気付いて助けを寄越してくれるのを待つしかないだろうな」


 痛み止めの薬草の効果が切れてきたらしく、少し苦しげにルージャが呟く。薬草の知識も、ロボには皆無。森に生えている薬草に詳しかった母に少しでも習っておけば良かったな。そう思いながら、ロボは消えてしまった焚き火の枝を集めようと立ち上がった。その時。


「あ、やっぱり」


 聞き知った声が、洞窟内に入ってくる。


「助けが必要な状態のままだったか」


 赤と黒の、古き国の制服を身に着けているラウドは、ロボを見て例の不敵な笑みを浮かべると、洞窟の奥のルージャの横に腰を下ろして怪我の状態を見た。


「隠里まで運べないことも無さそうだな」


 そして腰のベルトに配したポーチの一つから薬草を取り出してルージャに噛ませると、傍らの小鍋を見て笑った。


「懐かしいな」

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