助けてくれる少年と言い争いになる

 少年の指示で、少年が手当てをしたルージャを、少年が見つけた小さな洞窟へと、少年と一緒に運ぶ。


「後は、熱冷ましと、時々足を伸ばしてあげれば」


 少年が飲ませた痛み止めの薬草が効いているのだろう、地面に敷かれたマントの上で目を閉じたルージャの規則正しい息づかいに、ルージャはほっと胸を撫で下ろした。しかしながら。驚くべきは、少年の行動の的確さ。二本の副木をルージャの右足全体に当て、しかも骨がきちんと正しい場所に戻るように足を引っ張る仕掛けまで施した手当の腕といい、副木と薬草を捜すついでに洞窟まで見つけておく行動といい、ロボにはそこまでできない。だからロボは感心して、自分と同い年に見える少年を見詰めていた。だが。


「ありがとう、助かったよ」


「これくらい」


 ロボの賛辞に、少年は静かに首を横に振る。


「古き国の騎士なら、皆知ってることだから」


 少年の言葉に、ロボの心は一瞬、固まった。この少年は、赤と黒の制服は着ていないが、古き国の騎士だというのだろうか? ロボから離れて、洞窟の入り口の方に腰を下ろした少年を、ロボは先程の感心をすっかり忘れ、睨むように見詰めた。何も知らない自分を、そして自分を通して新しき国の騎士達全てを、馬鹿にされたように感じたのも、ある。それに。古き国の女王が新しき国の王に呪いを掛けていることと、古き国の騎士達が罪無き人々を残酷に殺していること。その二つの事実は、ロボの脳裏にきちんと残っている。だから。


「古き国、か」


 少年に聞こえるように、呟く。


「敵である王を呪っている」


 次の瞬間。少年の身体が、ロボの身体に肉薄する。急なことに唖然とするロボの胸倉を、少年の小さな手が強く掴んだ。


「リュスは、そんなことしてないし、これからもしない!」


 ロボを掴んだ左手にある小さな傷跡がロボの目を射た次の瞬間、赤く上気した少年の顔がロボの鼻先に迫る。殴られるか? ロボ自身の経験から少年の次の行動を感じ取り、ロボは思わず身を固くして目を閉じた。だが。苦しかった胸が、楽になる。そろそろと目を開けると、少年の姿は、洞窟の中の何処にも無かった。


 言い過ぎた、かもしれない。少年の灰色の瞳の中に見た強い怒りを思い出す。ロボはただ呆然と、洞窟の入り口近くに少年が作った小さな焚き火を見詰める他、無かった。

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