リールとレイ
「ロボ。何処へ行って……」
訓練所の執務室に入ってきたロボを見て笑顔になったリールの顔は、ロボの後ろにいた人物を認めて大きく歪んだ。
「レイ、何故、ここに?」
明らかに敵を見る目で、レイを睨むリール。リールがそこまで、幼馴染みであるはずのレイを憎む理由は何だろうか。ロボは思わず首を傾げた。思い当たることは、一つしか無い。おそらく、……古き国の、こと。
「獅子の痣を持つ者をジェイリの許にやるとは、軽率だな、リール」
ロボを横に置き、これまでのことを説明するレイの口調も、明らかにリールを蔑んでいるようにロボには聞こえた。
「それとも、この見習い騎士が獅子の痣を持っていることを知らなかったのか?」
「そこまで個人的なことに立ち入る権限は、騎士団長といえども持っていない」
リールの答えに、レイは侮蔑するようにふんと鼻で笑った。そのレイの態度が、リールの気に触ったらしい。突然、リールがレイの胸倉を掴む。
男装しているが、レイは女性だ。止めなければ。ロボは大慌てでレイとリールの間に割って入ろうとした。だが次の瞬間、ロボの小柄な身体はリールの左腕で壁際まですっ飛ばされた。
「あ」
その時になって初めて自分の激昂に気付いたらしく、リールがレイの服から手を放す。
「帰ってくれ、レイ。そして二度と私の前に顔を出すな」
だが、リールが次に口にした言葉は、並々ならぬ怒りに満ちていた。
「君にそこまで馬鹿にされたくない。君こそ、主君たる王に」
「私は、私の良心に従っているだけだ」
リールに対してその言葉を投げつけるなり、レイは踵を返してリールの執務室から去る。後に残ったリールはしばらくの間、レイが去った後の空間を睨み付けていた。
「……さて」
リールの口から次の言葉が出てくるまで、ロボは打ち付けた背中の痛みを堪えながらただ静かに床に座っていた。
「済まない」
そのロボの前にリールが立ち、ロボを立ち上がらせて怪我が無いかどうかを聞く。いつもの、部下を労る騎士団長だ。ロボはほっと胸を撫で下ろした。
「しかし、あの第三王子に絡まれるとは」
レイに対峙した時とは少し違う、心から忌々しげな声で、リールが第三王子の名を口にする。
「とにかく、ここに居ては危険だ」
王都に居る、彼に頼むか。リールのその言葉を、ロボはただ黙って聞いていた。
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