夕食後の窮地
そして、夕食後。
部屋でくつろいでいたロボは何故か、第三王子に呼ばれた。何の、用だろう? 首を傾げつつも、それでも気楽に、従者の後に付いて行く。おそらくリールがロボに託した手紙に、何か不審なことが書かれていたのだろう。しかしロボは、手紙の中身を知らない。何を聞かれても「知らない」としか言えないが、おそらく、それで大丈夫だろう。第三王子の執務室に入るまで、ロボはそう思っていた。だが。
「こいつか」
大きめの執務室で、騎士の白い制服の上に青黒いマントを羽織った第三王子ジェイリに対峙するなり、自分の予想が間違っていたことを知る。
「服を脱がせろ」
黒緑色の鋭い視線でロボを見るなり、第三王子は周りに居た騎士達にそう命じた。
戸惑うより前に、横に居た第三王子の従者らしき者がロボの上着に手を掛ける。何をされるのかは分からないが、とにかく、逃げなければ。従兄弟達に苛められていた幼い頃を思い出し、ロボは従者の向こう臑を思い切り良く蹴りつけると、従者が怯んだ隙に腰を落とし、他の騎士に捕まらないように低姿勢で素早く、第三王子の執務室から飛び出した。
「逃がすな! 捕まえろ!」
第三王子の声を背後に聞きつつ、暗い廊下を走る。気のせいだろうか、何故か、身体が重い。森の中で、友人の首が落とされた後、恐怖で逃げ出した時と同じような重さだ。何となく、ロボはそんなことを思った。とにかく、今は出口を探さなければ。折良く、廊下に設えられた窓の一つが開いているのが見える。この場所が何階か確かめる余裕もなく、ロボはその窓から外へと飛び出した。すぐに、足と膝と腕が地面に落ちる。だが、身体が重過ぎて、動けない。それでも逃げなくてはいけないと思い詰めて、ロボの手足は無駄に地面を掻いた。
と、その時。
「誰か、居るのか?」
暗闇に、小さな声が響く。逃げなければ。そう思いつつ宙を掻き続けたロボの腕は、柔らかい感じのする手に掴まれた。
「これは……?」
ふっと身体が持ち上がる。細く固い肩らしき部分に腹が当たり、痛みと気持ち悪さがロボの全身に広がった。しかし、身体の重さは、無くなっている。
「しばらく我慢してくれ」
華奢で悪かったな。ロボを担いだ人物の、小さな声が聞こえてきた気がして、ロボは呻くのを止めた。
しばらくそのまま、暗闇を運ばれる。ロボを運んでいる人物は道をよく知っているらしく、その足取りに澱みは無かった。運ばれてゆらゆらと揺られている内に、ロボは何故か疲れを覚え、ゆっくりと目を閉じた。
と。
「ラウド?」
聞き知った声と共に、急に、周りが明るくなる。無理矢理目を開けると、松明を持った赤い髪の青年が見えた。
「ルージャか」
ロボを担いだ青年の声が、遠くに響く。
「ライラは、今、城に居るんだけど」
そのルージャの声を最後に、ロボの意識は、暗く温かい闇へと落ちて行った。
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