ロボの肩にあるもの

 古き国の騎士達のことと、子供のこと。二つの出来事の為に、結局、ロボが第三王子の住まう古い屋敷に辿り着いたのは日が暮れてからになってしまった。


「今日はもう遅い。泊まっていきなさい」


 屋敷にいた優しげな家令の言葉に甘え、言われるがままに小さな部屋で靴を脱ぐ。従者らしき青年が持ってきてくれた水差しの水とタオルで、ロボは疲れた身体を拭いた。


 そっと、左肩を見る。小さい頃から見慣れた獅子の横顔がロボを睨んでいるように見え、ロボはふっと息を吐いた。この痣は、父親譲りの痣だと、母は言っていた。母親似の黒髪に小柄な身体のロボだが、瞳の濃い青色と、左肩の痣だけは、父親から受け継いだものらしい。


 父について母から教えて貰ったことは、少しだけ。大柄で尊大な態度の人間で、肩まで流れる金髪がその尊大さを際立たせるようにきらきらと輝いていたこと。新しき国の騎士らしいのだが、自分を庇って大怪我をしたという古き国の騎士を手当てする為に、母が当時王都に居た母の兄の代わりに差配していた屋敷の門を父が叩いたのが、母と父の出会いであること。そして、獅子王の血を引いているという証である、獅子の痣を持っていたこと。全体的に考えて、変な人、だったのだろう。それが、ロボの父に対する正直な感想。それでも、一緒に居たのが一夜のみだったにも拘わらず、母は父を愛し、他の人と結婚することも無く、生まれた息子を心から大切にしている。そのことが、ロボにとっては不思議でならなかった。


 と。ノックの音に、はっとして振り向く。


「食事ができたそうだ」


 扉のところに、水差しとタオルを運んでくれた従者が立っていた。


「あ、ありがとうございます」


 ロボは大急ぎで服を羽織ると、従者について食堂に向かった。

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