副都での出会い

 春の初めだからか、それとも普段からそうなのか、副都は人と物で溢れかえっていた。


〈な、何なんだ、この人だかりは〉


 広く作られているはずの大通りでさえ、あちこちに向かう人と、人々が持つ大きな荷物、そして道端に置かれた売り物らしき物に占拠されている。大通りから分かれる小道に至っては、どうすれば通り抜けることができるのかすら分からない。副都が初めて、いやこれまで街らしい街に行ったことが無いロボにとって、副都の光景は物珍しいものだったが、同時に人の多さに早速辟易していた。


 それでも何とか、副都とその周辺を支配する太守の、壮大な屋敷まで辿り着き、家令にリールの手紙を渡す。リールからの依頼自体は何事も無く済み、ほっとしたロボだったが、再び人混みの中を通って帰らなければいけないことには正直げんなりしていた。それに。通りのあちこちで売られているらしい、美味そうな匂いに、お腹が勝手に鳴る。母がくれたお金を、少し持ってくれば良かった。ロボは大きく息を吐いた。そして。ふと目を留めた屋台に並んでいた髪留めに、深く息を吐く。近くに寄って見てみると、ロボが見つけた赤い石の付いた大きめの髪留めは、ロボと同じくらい常にもつれていた母の髪をきっちりと留めてくれる丈夫さを持っているように、ロボには思えた。今はお金を持っていないから買えないが、秋になったら、母の誕生日にまた街に来て買おう。前の誕生日に、赤い実を磨いて作った留め金をあげた時の母の笑顔を思い出し、ロボは心が温かくなるのを感じた。


 と、その時。


「それ、ロボが付けるのか?」


 聞き知ったばかりの声に、口をあんぐり開けて振り向く。いつの間にか、ロボのすぐ隣に赤い髪の青年ルージャが立っていた。


「つ、付けないよ」


 思わず真顔で、返事をする。


「冗談だ」


 ロボの答えに、ルージャは快活な笑顔を見せた。


「で、何してんだ、こんなところで」


「リール様のお使い」


「ふーん。俺は、ライラの手伝い」


 背中と左腕に荷物を抱えた、今日のルージャは、初めて会った時と同じような職人風の服を着ている。新しき国の騎士の制服より動きやすいから普段はこれを着ている。ロボの視線に、ルージャは笑ってそう言った。


「騎士の服は、丈が短くて、股のところがスースーして嫌なんだよ」


 確かに、年上の騎士達が身に着けている上着は皆、尻が見えるのではないかと思うくらい丈が短い。それが流行らしい。周りに居る騎士らしき人々の服装を見るともなしに見て、ロボはふっと息を吐いた。ロボが見ても、あまり格好が良い服装とは思えない。ルージャや、騎士団長のリールのように、膝丈の上着を着ている方が格好良いと、ロボは正直に思った。それはともかく。


「そう言えば、足の具合は?」


 ルージャの問いに、首を横に振ってにこりと笑う。最初の手当が良かったのか、既に足を引きずらずに歩けるまでに回復している。ライラに、感謝しなければ。白金色の髪を思い出し、ロボは我知らず頬が熱くなるのを感じた。


「ライラも、心配してた」


 そのロボの気持ちを読んだのか、不意にルージャが、ライラの名前を口にする。


「そうだ、これから詰所まで来ないか?」


 ルージャの提案に、ロボはきょとんとした顔をルージャに向けた。次に思い出したのは、リールの言葉。


「戦乙女騎士団は、古き国を信奉し、罪無き人々を殺し、王に呪いを掛ける手伝いをしている」


 まさか。もう一度、ルージャを見る。ルージャも、そしてライラも、罪無き人々を殺し王に呪いを掛けるような人物には見えない。しかし。そこまで考えたロボの腹が、今度は盛大に鳴った。


「詰所には食い物が有ると思う」


 その腹の虫に、ルージャが大爆笑する。


「無ければライラが作ってくれるさ」


 腹を満たすだけだ。古き国に荷担するわけではない。そう、言い訳を付け、ロボはルージャに付いて行くことに決めた。

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