逃げるロボを、助けてくれたのは

 だが。


 雪解けの泥濘に散々足を取られながら、這々の体で森の入り口まで辿り着いた時には、ロボの体力はほぼ尽きていた。これ以上、歩けない。散々水を吸っている上着が、疲れ切ったロボの身体に重く纏わり付いている。騎士団の詰所まで事態を報告に行くなど、論外。しかし。残酷にゼイルの首を一刀で刎ねたあの古き国の騎士が、そして、……あの闇が、友達の顔をしたあの黒い靄が、追ってくるかもしれない。森での惨状を思い出し、わなわなと再び震え始めた足を何とか叱咤すると、ロボはぎくしゃくと街道へ出た。


 だが。身体の限界が、来る。目眩と共に、ロボの身体はゆっくりと、雪の混じった泥濘の中に倒れ込んだ。


 再び氷のように冷たくなった衣服が、容赦無くロボの身体から温かさを奪う。凍るのと食べられるのではどっちが楽だろう。薄れゆく意識の中で、ロボはそんなことを考えていた。


 と。


「大丈夫か?」


 しっかりとした腕が、ロボの身体を泥濘から引っ張り出す。あの闇が来たのか。それとも、友達を残酷に殺したあの恩人か? 不器用に藻掻きつつ目を開けると、ロボの予想とは全く異なる人物が映った。


「大丈夫だ。何も怖いことなんて無い」


 はっきりとした言葉に、藻掻くのを止める。ロボの意識がはっきりとする前に、ロボを泥濘から助け出した赤い髪の男はロボの濡れた上着を剥ぎ取り、自分が纏っていた職人風の薄青のマントをロボの身体にきっちりと巻き付けた。どうやら、彼は本気でロボを助けてくれているようだ。ロボはほっと息を吐いた。


 安心すると同時に、再び意識が遠のく。


「しかし、このままでは……」


 そう言いながらロボを担いだ温かい背に顔を埋め、ロボはゆっくりと目を閉じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る