第5話 志は天まで届く

     六


 うさぎの携帯がバイブレーションで着信を教えた。発信者は荒井であった。

 うさぎは説明して反対の隅に移動してから出た。

「赤瞳、一足違いだったよ」

「間に合わなかったのですか?」

「爆発事故に巻き込まれちまったよ」

「生存は?」

「救急搬送されたらしいが、確認がとれないらしい」

「らしい?」

「大勢いて、朝宮総一朗氏を特定できないんだよ」

 うさぎは苦虫をかみ潰し、

「解りました。有難う御座います」と言って切った。直ぐに中里に連絡を入れる。

「お忙しい所申し訳ありませんが、朝宮総一朗さんが爆発に巻き込まれました」

「朝宮総一朗さん?」

「結婚式場の事件で被害者になった新婦の父親です」

「新婦の父親ですか?」

「テロ事件阻止の報復と見られます」

「どうします?」

「決まってます」

「全員甦らせますか?」

「勿論です」

「解りました」

「緊急搬送先の特定からですね」

「私は警察庁に連絡しますから、政府与党を動かして下さい」

「どうやって?」

「新宿駅前の事変で、幹事長が『味方みかた』であることを忘れましたか?」

「解りました」

「今なら、搬送先を誘導できるかも知れません」

「警察病院にしますか?」

「自衛隊病院がいいでしょう」

「それなら、つてがあります」

「では、池尻の自衛隊病院で落ち合いましょう」

「了解」

 うさぎはスマホをしまい、二人の元に戻った。

「あたしも行った方が良い?」

「いえ、サキさんの傍に居てあげて下さい」

「お父様は、大丈夫ですか?」

「地獄まで迎えに行ってでも連れて帰ります」

「宜しくお願い致します」

 うさぎは軽く会釈して踵を返した。

「大丈夫。あたしの父さんは、死に神よりも強いんだからさぁ」

「うん、知ってる」

 二人が苦笑いで見送っていた。



    七

 

 うさぎは電話を片手に、タクシーに手を挙げていた。行き先を告げ、電話に集中する。

「済みません。状況は把握しているでしょうから、次官を動かして頂けないでしょうか?」

「解った。だが本当に生き返るのか?」

「多分です」

「多分じゃ困るんだがな」

「自衛隊病院にしたのは、ヘリの移送を計算したからです」

「ヘリコプターを使うのか?」

「無駄遣いをしたから、持っていますでしょう?」

「だから、警察庁を使うのか」

「須藤さんなら、何度も奇跡を観ていますから」

「解ったよ」

「有難う御座います。宜しくお願い致します」

 スマホを耳から外し一別してから切った。

 うさぎは甦らせ方を摸索していた。


 爆発はプラスチック爆弾だろうか?、被害状況が解らない。地下組織の常套手段は、自爆による巻き込みが多い。ミサイルのようなものではない。


 荒井の口振りでは、元素及び化学兵器ではないようだ。大勢の死者が出ていれば、警察の面子が丸潰れになる。さすれば、声のトーンでも解る。


 暴力団が金の力にものを言わせたのなら、農薬による化学反応のものになる。最先端技術を要する兵器紛いの爆弾を造る知恵はない。もしもあるならば、輩には堕ちない。


 大学卒の極道者にしても、堕ちる理由を考えれば、教授クラスの知識は持っていないはず。

 時限装置にしても、裏サイトにあるものは、レベルの低いものが多い。理由とするなら、時計で刻む十二時間という制限付きになるからだ。ほとぼりの冷める頃に照準を合わせられない。なんとかのひとつ覚えで、『鉄は熱いうちに打て』を実行していた。


 ショック死か?。


 AEDう~ん、何かが足りない気がする。


 !、バイオリズムだ。


 波に電気を流しショートさせれば、波の高低を作り出せる。電素と磁素は対極だからショートは可能である。


 神々様の思念だと、頭の鉢を粉々にして終うが、うさぎの思念なら、そこまで強力ではない。試す価値はある。間隔や強弱はある程度の計算がいられるが。

 うさぎはそれで、再びスマホを取り出した。


 検索したのは、オームであった。

 流れに伴う抵抗力が知りたかったのである。

 オームは、真空状態と重力圏では違う。人の体内は、地球上にありながら、宇宙空間と同じ仕様になっている。電磁にしても、それに然りである。

 直ぐさま通話に切り替えた。


「うさぎです」

「今日は、どの様なご用件でしょうか?」

 相手は、K大学の岡村准教授だった。

「大学内にある、抵抗力に関する資料を集めて頂けませんか?」

「抵抗力ですか」


 先日のテロ事件阻止の報復で、爆発事件が発生しました。爆発に巻き込まれショック死された方を甦らせるつもりです。


「ショック死の人間を蘇生できるのでしょうか?」


 解りませんが、『やってみる』と決めました。そこに立ちはだかったのが、抵抗力なんです。少しでも無駄を省きたいですから。


「人体実験は、法の裁きを受けることになりますよ」


 それは覚悟の上です。

 何事も、挑戦から始まります。

 失敗の責任は、私ひとりでいます。


「解りました。失敗の要因をひとつでも潰して措きたいのですね」


 お手数をお掛けしますが、宜しくお願いします。


「他人行儀は、よして下さい」


 挑戦は、池尻にある自衛隊病院で行います。できれば、見学を兼ねて、お持ち頂けると助かります。


「手が多いほど良いのでしょうか?」


 怪我の治療を邪魔できませんので、少人数でお願いします。


 うさぎは言うと、岡村の返事を聴かずに一方的に切った。タクシーが、自衛隊病院に到着したからである。


 



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