第6話 立ち止まる理由は?
八
中里が、須藤を伴い、自衛隊病院で待ち構えていた。
「申し訳ありません。無理を承知でお頼みしました」
「警察と消防で連携を取り合ってくれています」
「消防からの連絡は、危篤状態の方々を特定できたものでした」
「何名でしょうか?」
「三名です」
「救急車でここへの搬送はできないようです」
「
「有難う御座います」
「今回は、どんな手を使うつもりですか?」
「電素と磁素のショートで、脳波を作り出します」
「そんなことができるんですか?」
「できるかどうかではありません」
「やるしかない、ということですね」
「それより、幹事長はなんと?」
「緊急事態を発令してくれました」
「なんと!」
「これで、法の裁きは免れますね」
「そういうことなら、K大学も近いですから、呼びましょう」
「解りました。連絡します」
「須黒研究室全員でお願いします」
「何故?」
「枠組みを壊すのは、若者たちの想いに頼るのが一番ですから」
「そういうことだったんですね」
須藤が、見えないものを見詰めながら理解した。
「赤瞳さん」
「なんでしょうか」
「電素と磁素のショートとは、どういうものか説明して頂けませんか?」
岡村に訊ねられて、うさぎが説明を始めた。
磁石とは、電気が電位が高い方から低い方へ流れる仕組みです。勿論、低い方から高い方へも流れはあるはずです。例えば、砂鉄は両極にくっ付くので解りますよね。
両極というのは、N極とS極が書かれていますから、皆さんご存知のはずです。
「接触と反発ですか?」
脳内でそれを施行します。
「そんなことできるのですか?」
過去に、口から流し込んだものを臓器を経由させたことがあります。
「大和駅の事変でしたよね」
石が、口を挟んだ。
その頃は、伝素も電素もありませんでした。ですが今は、どちらもありますし、磁素さえもあります。
元素に関して日本は、無敵なんですよ。
「一般の方々は興味がないですし、知りませんですがね」
高橋が自負のように言った。
「死人の甦りは、歌舞伎町の事変で報道されましたが、記憶にすらないでしょうね」
須黒も苦い思い出を口にした。
「人情が売りの国は最早、人も命も価値が廃れちゃったんじゃない」
斉藤が、呆れ果てて言った。
「それでも、私たちが居ますよっ」
小野が、可能性を打ち出した。
須藤が、『このメンバーが居れば、必ず変えられる』と確信していた。
爆破テロ事件を阻止できなかったが、死者ゼロは継続されていた。
九
うさぎは疲れを隠し、サキの病室に戻っていた。
「お父様も一命を取り留めましたよ」
「有難う御座います」
「あのさぁ?」
「なんでしょうか?」
「サキのお父さんの看病で、サキがひとりぼっちになっちゃうじゃん」
「サキさんがいいなら、私は構いませんよ」
「そうやって、いつでも先を見ているのが
「行くいく」
「随分簡単に決めたけどさては、魂胆があるわね?」
「親子だと結婚できないんだよ」
「ど・どういうことよ」
「楓花が嫁いだら、赤瞳さんはひとりぼっちになっちゃうからね」
「やぶから棒に、なにを言いだすのよ」
「淋しいかな!、ってね」
「同じ、ですね」
「なにがですか?」
「若しかして、あたしも言った?」
「サキさんに会いに行くときに云いましたよ」
二人が顔を見合わせた。
うさぎは心の中で、
「遺伝子は裏切りませんからね」と、呟いていた。
さては措き、賑やかな生活が始まるが、前途多難は否めなかった。
うさぎは、夢のお告げを復活させている。
輩たちの報復を考えれば、二人を守る為に如何すれば?、と悩んでいた。
「 リーン、リーン、リーン 」
スマホの着信で、現実に引き戻された。
スマホの表示は、荒井と映っていた。
「如何しました」
「サキさんのお母さんが倒れたらしいよ」
「警察の警備を掻い潜ったのですか?」
「詳しくは、まだ解らん」
「直ぐに行きます」
「待てよ」
「どうしてですか?」
「赤瞳のことだから、楓花ちゃんとサキさんを置いて駆けつける気だろう」
「は・はい」
「奴等の思う壺なんだよ」
「なら、連れて行きます」
「赤瞳はいいが、花も恥じらうお嬢さんに、路上生活を強いるつもりか?」
うさぎは、ぐうの音も出なかった。
「警察官を向かわせるから、それからにしろ」
「それだと、間に合わなくなります」
「大丈夫だよ」
「なにを根拠に仰ってるのですか?」
「赤瞳の仲間たちが来て、死人が生き返ったよ」
「それを先に言って下さい」
「なんでも、ひとりで背負い込むなよ」
「スイマセン、性分なもので」
「知ってるよ」
荒井が黄昏れてから続ける。
「いつまで経っても、変わってないよ」
「荒井さん?」
「今は、赤瞳の回復だけが頼りらしいよ」
「どういうことでしょうか?」
「見えなければ、一番を独走してられないらしいよ」
「沙羅双樹ですか」
「仏教を知らないことが恥ずかしいから、これから勉強するよ」
「それが、日本人の誉れですからね」
「判らないことは聴くらしいから、連絡だけは取れるようにして措けよ」
「解りました。うさぎさんチームの仲間たちに、『有難う御座います』と、伝えて下さい」
「了解」Χうさぎさんチーム全員
心配そうに聴きいっていた楓花とサキが、
「有難う御座いました」と、叫んだ。
うさぎは目頭を抑え、スマホに礼をしていた。
第二章 完
第三章につづく。
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