第37話 お勉強タイム

 岡持さんは複雑そうな表情でNCAのビジネスを語る。


「なにせ二十一世紀の世界人口って70億もいるからな。

 生活にかかせないNPCを全員に売りつけるだけでもすげえゴツイ商売よ。

 あっちの経営者はさぞ大忙おおいそがしだろうさ、地球9個で630億人だぜ。

 それが毎月更新こうしん料を払い続けるってんだから、もうすごすぎて二十一世紀の原始人には想像もつかねえよ!」


 侵略された側の悲しい笑い声を聞きながら、ちょっとスマホの電卓アプリで計算してみた。

 NPCにかかる費用が約1000円。

 かけることの630億だとひと月で63兆円かな?

 現代日本の国家予算がたしか『一年間で』だいたい100兆円だ。

 63兆円を12倍すると756兆円。

 国家予算の7倍以上にもなる。

 世界第3位の経済大国の7倍だ。


 このうち何割が税金になるのかは分からないけど……。

 たった一つの商売だけでこんなとてつもない利益を抱えている国って、全体でどれほどとんでもないことになってんだ?


 もちろんこれは大ざっぱすぎる計算なので数字はぜんぜん当てにならない。

 だけど想像もできないほど強大な経済力を持っているってことだけはわかる。


 そういう国で生活する人たちって、どういう暮らしをしているのかな。

 もう働きたくない人はロボットに全部任せちゃって働かなくてもいいんじゃないかな。


 エイツの人たちは仕事が欲しいとお願いして乱暴されていた。

 NCAの人たちは働きたくないなら働かなくていい生活をしている?

 なんだよこの理不尽な差は。


「許せないですね」

「そうだろう、だから何とかしなくちゃいけねえんだ」


 岡持さんはムスッとした顔でうんうんとうなずいていた。

 たしかに何とかしなくちゃいけないとは思う。

 けど経済力があるっていうことは軍事力もそれだけあるっていうことだ。

 これ本当にどうしたもんだろうねえ……?


 それからも僕のお勉強タイムは続いた。


――そもそもどうしてこの時代が狙われたのか、もっと古い時代ならさらに楽な戦争ができただろうに?

――それは単に技術力の問題。現在のOMTでは二百年までしか移動できない。


――NCA以外の未来国家はOMTを持っていないのか?

――鋭意えいい開発中らしい。二十世紀の核兵器開発競争に状況が似ている。


――1から7までの地球と連携れんけいは取れるのだろうか?

――我々が直接コンタクトをとることはできない。だがさらに上の組織ならそういったつながりもある。


――上の組織って?

――詳しくはまだ言えない。だが今日これから組織の一人が来る予定。


――岡持さんたちは現代人なのにどうしてOMTを持っているのか?

――上の組織から与えられたもの。上がどういうルートで入手したのかは説明されていない。


――僕はどうやってミドリコを手に入れたの?

――とある作戦行動中に潜伏せんぷくした建物内で危機的状態におちいったことがある。そのとき新品未登録状態のOYO―MEⅢ型を偶然発見した。それがミドリコ(名付け親は葵)。苦しまぎれにミドリコを強奪して、彼女の力でどうにか逃げることができた。


――ミドリコって強いの?

――普通の人間の十倍は強い。態度は百倍悪いけど。


――具体的には?

――1対1ならハウンドと互角ごかく以上に戦える。二対一以上だと苦しいが作戦しだい。


――組織にはミドリコのようなロボットは何体いるの?

――他にもロボットがいるとは聞かされていない。しかしゼロだと言われたこともない。


――どれくらい大きな組織なの?

――エイツ全域に根をはる世界的な組織。それ以上の事は自分たちも知らない。


「ふーっ」


 まだまだ勉強しなきゃいけないことは山盛りあるんだけど、頭が疲れてきた。

 整理する時間が欲しい。


「ZZZ……」


 僕の右ひざで葵さんが居眠りしていた。よく寝るねこの人。

 なにげなく頭をなでてみると、サラサラの髪が指に心地いい。

 ちょっと幸せな気分。


 この人と幸せに生きてみたいと、心からそう思う。

 そのために出来ることをしなくちゃね。

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