第36話 未来人は骨董品がお好き

 夕方までの長い時間を、僕は社会勉強のために使うことにした。

 いくら何でも僕はこのエイツのことを知らなさすぎる、何をするにしても知識を得る必要があった。


 そんなわけでざっくりと世の中の状況を二人と一体から説明してもらった。

 ぶっちゃけていうとエイツはいま世界的経済危機のまっただ中らしかった。

 いわゆる世界恐慌状態。


 経済危機が一つならばまだしも、多数同時的に発生してしまったのが今のエイツの状況。

 こうなってしまうともうどこの国にも支える事なんてできやしない。

 ドミノ倒しのように順番に破綻はたんしていって、どうにもこうにもならなくなってしまっているのだそうな。


 原因はもちろん、未来人による侵略戦争と収奪しゅうだつ貿易ぼうえきのせい。


「ってちょっと待って」


 僕は無意味にふんぞり返っているドリコを止めた。


「さっきも気になったんだけど、未来人は僕たちの何が欲しいわけ?

 石油やガスも必要ないし、二百年も昔の製品なんか今さら使い物にならないでしょ?」

「少しは自分でも考えてみてはいかがですか?

 古いほうが価値のある物もあるでしょう?」


 イラッ。


「世界に一つしかない美術品、宝飾品。

 あるいは世に数本しかない幻のビンテージワイン、名匠めいしょうの作った楽器、工芸品、玩具がんぐなど。

 時代が進むごとに失われていく宝というものが世の中には無数に存在しているのですよ」


 結局自分で言うんかい!


「つ、つまりコレクション性の高いお宝ってことだね。

 でも世界に一つしかないものがいっぱい増えるとしたら、値段がメチャクチャ下がっちゃうんじゃ?」

「十億円のものが一億円に下がったとしても、商品価値はあると考えているのでしょう」

「ふんふん、しかしそんな簡単に手放すもんかな」


 熱烈なコレクターにとってコレクションは命よりも大事なものだ。

 恫喝どうかつや暴力をうけてもなかなかイエスとは言わないんじゃないかな。

 ヘタすりゃ倉庫に火をはなって宝物と一緒に自殺、なんてことも起こりかねない。

 日本の戦国武将でそんな人がいた気がする。


「だからだよ」


 岡持さんが短くつぶやいた。


「だからNCAの連中は、わざわざ世界を不況にしたんだ」


 岡持さんの言葉はいつも内向的というか、説明不足で分かりにくい。

 自分の説明不足に気づいたのか、彼は頭をガリガリかきむしりながら補足してくれた。


「絵とか骨董こっとう品っていうのはさ、好きだから集めるっていう他に投資目的で集めるっていう側面がある。

 表に出せない金のロンダリングとかな」

「そういうのはよく分らないんですけど」


 投資とかロンダリングとか、言葉だけは聞いたことあるけどよく知らない。


「そうか。なら単純に転売屋だと思ってくれればいい。

 その転売屋がさ、本業で金に困ったらイヤでも美術品を売るしかなくなるだろ? 

 安く買いたたかれるのは承知の上で」

 

 ああ、何となく理解できてきた。


「えーっとつまり未来人は。

 第一に未来の商品を大量に売りつけてお金を作る。

 第二に経済競争で圧倒して現代人のビジネスをぶっ潰しまくる。

 第三に貴重な美術品を安く買いたたいて未来で高く売り大もうけする。

 ……ということで合っていますか?」

「その通りよくできました!」


 岡持さんは拍手はくしゅして僕をほめてくれる。

 でも目が笑っていなかった。

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