第33話 敵は未来を知っている

 日本を事実上支配している組織をNCAFJ(在日新米軍)というらしい。

 Fはフォース、Jはジャパンのりゃくだ。

 そこの司令官つまり敵のボスが、今テレビに映っている白人女性。

 名をマルガレーテ・スウ中将。


『このエイツにおける脅威きょういがまたひとつ解決したことを、ニッポンの、そして世界の皆様にお伝えします』


 低い声、淡々たんたんとしたクールな雰囲気ふんいきが印象的。

 きれいな金髪を大胆だいたんりあげたベリーショートヘアー。

 攻撃的な気性を思わせる冷たく青い瞳。

 柔道やアマレスの選手みたいないかつい肩幅かたはば

 化粧けしょうっけのまるでないはだ


 美人なのに、それをまるで生かそうとしていないように思える。

 まるで「美人に生まれたのは単なる偶然だ」と言わんばかりの武骨ぶこつな雰囲気をマルガレーテは放っていた。


『先日まで中東地域を騒がせていたテログループの主犯格、指導者たちが死亡したことを当局は確認いたしました。

 今後もエイツの安定と幸福を目指し、職務に邁進まいしんしていく所存しょぞんです」


 どうやらよその国で武勲ぶくんを立てたということらしい。

 ちょっと自慢じまんに語る彼女の表情をみて、岡持さんはフンと鼻を鳴らした。


「気取りやがって。

 何もかも承知しょうちの上で放置していたくせに今さらよく言うぜ」

 

 肩をすくめながら僕を見る。


「あいつらはな、これから先の未来に何が起こるのかをだいたい知っていやがるんだ、何でかわかるか?」

「え? えーと……」


 この場合はNPCの技術は関係ないよね。とすると……。


「無限鏡界の力だ。

 やつらは最新型のOMTで時間のずれた鏡界を自由に行き来しやがる。

 だから何年何月何日の何時、どこそこの国のナントカって街で事件が起こる、なんて情報はこの鏡界に来る前から知っていやがるんだよ」

 

 えっ、そこまでくわしく?

 ここでミドリコがいつものように解説。


「そもそもOMT、オポジットミラートランスポーターは、未来に発生する災害を事前に知って対策を立てるために発明されたものです。

 世界各地で起こる大事件などの情報も容易よういに入手する事ができます」


 なるほど災害予知ね。

 たしかにいつどこで自然災害が起こるかわかるなら、こんなに便利なことは無い。

 OMTで近未来の鏡界へいけばそんな情報も簡単に集まるというわけだ。


「だからこのマルガレーテっつう女が言っている事は、発生から解決まで何もかも予定通りというわけだ。

 なにせ八番目の地球だからな、楽勝なんだよ、ケッ」


 岡持さんは不機嫌そうにしながら、テレビの電源を切った。


「八番目って、さっきの人が言っていた『エイツ』っていう言葉の意味ですか」

「そうだ。ここが八番目エイツ

 お前のところがたぶん九番目ナインツ

 連中はもう八個もの地球を植民地支配しているってこった」


 そんなにたくさん。

 二十一世紀の僕たちは一つの地球ですらちゃんと管理しきれていないというのに。


 なんて強欲な連中だと思うのと同時に、なんて難しい、恐ろしい敵なんだと考えてジワジワ背筋が寒くなってきた。

 八個の地球を支配しているということは、未来の軍人たちはまったく同じ敵と八回戦ってきたということになる。


 ということは二十一世紀の僕たちのありとあらゆる事。

 兵力、装備、配置、戦術、国際世論、指導者の統率力、どこが強みか、どこが弱みか、どうすれば奮起ふんきするか、どうすれば絶望するか。

 そんな数えきれないほど色々な事を知り尽くしてしまっていると言っていい。


 根本的な技術力の差が深刻なのに情報力でも圧倒されているのでは、これもう絶対に勝てないんじゃないの?

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