第29話 戦災の爪痕

 自動運転の車は実に乗り心地ごこちよく、スムーズに道を行く。

 ありふれた田舎道いなかみちから少しずつ発展した街並みに入ると、風景は一変した。


 まさに戦災地。

 街のいたる所が破壊され黒焦くろこげになっている。

 壁に穴の開いた家屋の中には、焼けただれた家具などがそのまま放置されていた。


 ここで本当に戦争があったんだ。


 生々しい雰囲気ふんいきに僕は気分が悪くなった。

 何十年も昔の遺跡とかなら修学旅行で見たことがある。

 だがここはまだあまりにもリアルなまま、残骸ざんがいが残りすぎていた。


 古ぼけた商店。

 まだ新しい小型のビル。

 ごく普通の民家。

 僕らの進む県道の左右にこれらの物件がいくつも並んでいる。

 しかし無事なものはあまりない。


 ふと、ゴミ捨て場に大きなぬいぐるみが捨てられているのを見つけた。

 顔がやぶけて綿わたがあふれ出し、さらに腕も千切ちぎれたクマのぬいぐるみ。


 黒くげた戦災地の中で見たそれ・・は、まるで人間の死体のように思えた。

 

「うっぷ……!」


 吐き気で口をおさえた僕を、葵さんが気づかってくれる。


「だいじょうぶ?」

「う、うん、なんともないです」


 考えすぎだ。うん、考えすぎ。

 いま見たのはただのぬいぐるみじゃないか。

 死体なんかじゃない。



 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 それから小一時間ほど経過。

 岡持さんに声をかけられた。


「見ろ、ユウ。

 あれが連中の住む街だ」

「うわ、すっご!」


 忌々いまいましいという口調だった岡持さんには悪いけど、僕はあまりにも素直に感動してしまった。

 

 第一印象は超巨大なガラスケース。

 圧倒的スケールと美しさだった。


「これが未来の街ですか!?」


 縦横たてよこおよそ十キロメートル、高さ二百メートルくらいはありそうな、巨大で美しいはこ

 素材は何なのかわからないけど、まさか見たままのガラスじゃないと思う。

 それが奇抜きばつなデザインの街をすっぽりおおいつくす形でそびえ立っている。


 ちなみに許可証がないと中に入れないそうだ。

 現代のアメリカでもすでにそんな感じの高級住宅街が実在するって聞いたことがある。


 外から見た感じだと豪華なお屋敷があり、緑ゆたかな公園があり、スポーツ施設があり、レストランがあり、ヘリポートがあり――となんでもそろっている感じ。

 道を歩いている人たちもみな、現代人とはセンスが違いすぎるんだけどはなやかで高そうな恰好かっこうをしていた。


 そしていたる所に例の動物型兵器『ハウンド』が鎮座ちんざしている。

 警備体制も万全だ。


 こんな巨大で手の込んだ空間をわずか一年や二年で作ってしまうなんてね。

 そういう部分でも驚かされる。


 しかし、その外は……。


 美しく巨大な特別エリアから少し離れると、まるで別の国のようにすたれていた。

 見覚えのあるビルディング街がずいぶんとすすぼけた姿に変わり果てている。


「意外と昔のビルとかも残っているんですね」

「ああ。俺たちの技術で作った家なんぞ、奴らにとっちゃ汚ねえ上に危険で住めねえみたいだからな。

 欲しいエリアだけ爆撃でキレイさっぱりブッ壊して、いつも通りの超技術で自分好みの住処すみかを作っちまったのさ」

「あ……そうですよね」


 壊されていない建物は、意図いと的に壊さなかったのではなく『結果的に』残っただけ。

 自分たち専用の《綺麗なガラスケース》を作るために土地はうばわれ、そこにあった物はすべて無慈悲むじひに破壊された。


 残りはいらないからキミたちで好きにしてくれたまえよ、って感じなのかな。

 好きにしてくれったってひどい有様ありさまだ。

 戦災によって黒焦くろこげかすすまみれかの二択にたくだなんて。

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