第27話 ディストピアの根幹をなす装置

 僕たちを乗せた未来の自動車はおそろしく静かに、そして快適かいてきに道をすすむ。


「……静かですね、この車」


 エンジン音どころかモーター音すらしない。

 かなり荒れた道を走行しているのに振動もない。

 どうやら基本的な性能が恐ろしく高いようだ。


「この車も、星明りとかでずっと走り続けられるの?」

「運転中なので話しかけないで下さい」

「あっ、ごめん!」


 反射的にあやまる僕だったが、ミドリコは鼻で笑った。


「冗談です。この程度でわたくしの処理速度は低下しません」

「こっ」


 この嫌味ロボット!

 そもそも運転は車が勝手にするって話だったじゃねーか!


「現在の主運転権はわたくしにありますが、具体的な運転は行っておりません。

 しかし安全確認は常時行っておりますのでご安心を」


 主運転権。また耳慣れない言葉を使われた。副運転権とかもあるのかね。

 いいかげん新しい言葉を聞かされるのもつかれてきた。

 あと何回言われるのだろう。


 OTM? OMT?

 とかいうので違う世界……鏡界きょうかい

 とかいう場所に来て?

 そしてこの世界はネオなんとかアメリカに支配されていて?

 いま乗っている車はナノコンピューターで操作する燃料いらずの車?


 うーん、全然ついていけないぞ、僕。

 ひたいに指をあてて頭を整理していると、後部座席のあおいさんが気を使ってくれた。


「車酔いした? 音楽でもかけよっか?」

「いや、大丈夫」


 葵さんは僕のいうことを聞かず、指を空中でシャカシャカ動かした。


「いや、あの……」


 そこに何かがあるんだろうなってのは分かるんだけど、僕、それ見ることも聞くこともできないんだよね。

 葵さんは僕を見てニコニコしている。

 僕は葵さんを見て苦笑いしている。


「葵、昨日も伝えたはずです。

 時田ときたゆうはNPCを保有しておりません」

「あ、そっか!」


 葵さんは昨日と同じことを言った。


「えーっ、いまどきNPCなしなんてありえないっしょ。

 とちゅうのコンビニで買おう?」

「こ、コンビニ!?」


 これにはさすがに驚いた。そんな身近に売っているのか?

 ナノマシンっていうくらいだから超小型の精密機械なんじゃないの?


「ダメです」

「ダメだ!」


 ミドリコと岡持おかもちさんの二人が、同時にダメという。


「危険だからやめておこうって、会議で決めただろう」

「う~、そうだったっけ~?」

「貴女は居眠りしていたので知らない情報です、葵。

 大事な決議に不参加だったのは貴女の過失なので、岡持の指示に従うべきです」


 葵さんはう~とうなりながら引き下がってしまった。


「あの、そのNPCって、コンビニなんかで売っているんですか?」

「ああ、だけど君は遠慮してくれるか。

 便利は便利なんだが、リスクのでかい代物なんだ」

「そんなに?」


 岡持さんは真剣な表情でうなずいた。


「全身いたるところをコンピューターがめぐっているんだ。頭の中にもいる。

 普段はひたすら便利な良いものなんだが、警察や軍隊に悪用されるのがとにかくひどくってな」

「警察が悪用、というと電気ショックとでいじめてくるとか?」


 岡持さんは首を横にふった。


「いや、もっと単純。

 目の前が真っ暗になって耳も聞こえなくなり、全身の感覚がなくなっちまうんだ。

 やられた奴はまったく行動できなくなる」

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