第25話 四角く輝く宇宙

 いやそれにしても、次から次へと新しい情報をあたえられてかなり混乱気味なんだけどさ。

 みんなの言う話を総合して考えてみると……。


「つまり、あなたがたの世界――四年後の鏡界きょうかいとかっていうのは、二十三世紀の未来人から侵略されているってこと?」

「うん、そうだよ」


 葵さんが暗い顔で肯定した。


「二年前のあの日、なんもかんも変わっちゃった。世界がまるごとぜーんぶ。

 この鏡界にのこっている『今』は、もうあんまり残ってないの」

「そんな……」


 とんでもない話だ。でもきっとウソじゃない。

 ミドリコという人間そっくりの超高性能ロボット。

 そして床に横たわる犬のような形の兵器。

 こんなもの、今の時代じゃフィクションの中にしか存在しない。


「だから『自分たちの手で核ミサイル』なんですか?

 もっと他の武器でとか、他の強い国がとか、そういうことを期待できるような状況じゃなくなっちゃってるってことで?」

「ああ、そうなんだ」


 岡持さんがみんなを代表して答えた。


「ユウ、君に一度、俺たちの鏡界に来てほしい。

『俺たちの今』を知って『君たちの未来』を知ってほしいんだ。

 その上であらためて、協力をお願いしようと思う」


 正直な気持ちとしては怖いから遠慮したいと思った。

 好奇心よりも不安感のほうが勝る。

 でも断れる空気じゃない。


 僕はきっと見るべきだ。

 葵さんが生きる世界を。

 自分がいなくなった後の世界を。


「はい、お願いします」


 僕のこの一言で、異世界小旅行は決定された。




 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞




「う、うわああああああ!」


 悲鳴なのか。感動なのか。

 それとも別のなにかなのか。


 自分でも説明のつかない大声をあげている僕。

 いま目の前に広がる光景は、それくらいすごいものなんだ。


 僕は宇宙のようなとてつもなく広い空間を飛んでいた。

 ほんの数十メートルほど先の空間に、いくつもの四角い窓が並んでいる。

 その中には僕の知らない世界が広がっていた。

 はるか遠くには星々のようにキラキラした存在も無数に存在している。

 しかしそれらは星ではない、その証拠に円ではなく四角形の輝きをはなっていた。


「これが無限鏡界!?」


 合わせ鏡とはいうけど、視覚的には万華鏡まんげきょうのほうが近い。

 まるで宇宙のように広大で、果てなんか無いのではないかと思えた。


「この窓の一つ一つが別の世界?」

「その通りです。そしてわたくしたちが向うのは、もっと上方の鏡界です」


 どこからかミドリコの声がする。

 それと同時に僕の体が急加速して上……と思われる方向へ引っ張られる。


「わ、わあああ!」


 ジェットコースターに乗っているときのような恐怖感。

 思わず身がちぢこまる。

 いくつもの四角い光が高速で横を通り過ぎていき、そしてついに終点が来た。


 ガッシャアアアアン!


 すぐ近くで大きなガラスが砕け散るような大音声だいおんじょう

 僕の身体は、まぶしい光に包まれた。




 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞




「うっ……」


 これは太陽の光か。

 突き刺さるようなまぶしい光に、僕は顔をしかめた。

 暗い空間から突然明るい空間へきたのだ、目がれるまでしばらく我慢するしかない感じ。


 ムッと鼻をつく草のにおい。

 手には土や雑草の感触がある。

 僕はいつの間にやら地面にひざまずき、両手で土をつかんでいたようだ。


 ここが今までとは違う世界。

 初めて吸う別世界の空気。

 初めて踏みしめる別世界の地面。


 そよ風が僕をつつみこむ。

 周辺で木々や草花くさばなのざわめく音がした。

 



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