第23話 敵は天空にあり

 ……人間って、ビックリしすぎると何も言えなくなっちゃうんだね。

 硬直しちゃったよ僕。


 なぜ月を? しかも核ミサイルだと? それはそっちの世界? こっちの世界? なんのために? そもそもそんなこと可能なのか? 


 次から次へと疑問がわいてくる。


「ってミドリコ! お前いきなりぶっちゃけすぎだろ!」


 大男の岡持おかもちさんが責めるも、感情を持たぬロボットは動じない。


「これがもっとも効率の良い説明なのです。

 昨日からデータを収集し続けておりましたが、この鏡界きょうかいの時田悠も陰気な顔で鬱々うつうつと物思いにふけるタイプの人間です。

 ねじくれた性格でおかしな勘違かんちがいをされる前に真実を突き付けたほうが安全確実だと、統計上の結論がでました」


 悪かったな、陰気でねじくれていて。


「そうは言ってもなあ。すまんなユウ」


 岡持さんが苦い顔で話に割って入る。


「い、いえ、でも何だってそんなことを」

「まあその、あれだ。敵の重要拠点があるからだよ」


 彼はなかばやけくそといった表情になってしまった。


「何となくわかるだろ?

 月面を攻撃するために作られた兵器なんて、この時代には存在しないんだよ。

 相手もそれをよく知っている。

 だから俺たちの世界でロケットの打ち上げができる施設しせつは全部壊されちまった」


 それから少し、この人たちに色々と説明された。


 いわゆるICBM、大陸間弾道ミサイルというのは一度大気圏たいきけんを突破して移動し、再突入して地上に降ってくるものらしい。

 ロケット打ち上げができる施設とICBMそのものがあれば、その理論を応用して重力の壁を突破し、月面基地を直接攻撃できる――かもしれない。


 というのが彼らの組織の計画だった。

 まあ、彼らの狙いはわかったけど。


「ぼ、僕にそんなこと出来るのかなあ?」

「不可能に決まっているではありませんか」


 即答しやがったよこの性悪ロボット。


「貴方は核保有国の政府関係者でもなければ軍人でもありません、なので可能性はゼロです。

 できる事といえば部屋を一時利用したり名義めいぎや金銭を拝借はいしゃくする事ぐらいでしょう。

 しかし未成年者である今の貴方にはそれすらもあまり期待できません」


 完全に馬鹿にされた言われように、さすがにムカッときた。


「だったら何で僕のところに来たんだよ」


 ミドリコはジロリと視線をうつし、僕の横に立つ美女を見た。


アオイままですよ。

 どうしても貴方に会いたいと駄々だだをこねたのです」

「あ……」


 僕と目があうと、葵さんは力なく笑った。


「あ、あはは、やっぱりイヤだったかな、こんな話」

「いや、そんなことはないけど……」


 今さらこの出会いを無かったことになんてしたくない。

 けれど、こんな話に僕が役立てるとはとても思えないんだ。

 会いに来てくれた葵さんには悪いけど、こんな普通かそれ以下の未成年にすぎない僕なんかじゃ……。


「まあまあ、勘違かんちがいしてほしくないんだが」


 空気が重くなるのを嫌ってか、岡持さんがフォローに入る、


「実際問題、仲間がたくさん必要なのは事実だ。

 そしてユウ、君をさそおうと言いだしたのはたしかに葵だが、最終的に賛同さんどうしたのはみんなの意思だよ。

 見知らぬ他人よりも、気心の知れたかつての仲間のほうが良いってね」


「……!」


 かつての・・・・、仲間だってさ。

 やれやれ僕の予想は悪いほうにばかり当たるな。


「そっちの僕も、あなたがたの仲間だった・・・んですね」

「うん、そうだ。本当にいい奴だったよ」


 岡持さんはしばしうつむき、意を決したひとみで僕を見つめた。


「去年の事だ。

 こっちの君は爆弾テロに巻き込まれて。

 一緒にいた葵をかばって、亡くなった」

「爆弾テロって、それじゃあんた達が」

「それは違う!」


 怖いくらいの迫力で彼は叫んだ。

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