第13話 月光が照らす公園 前編

 僕はだんだん頭が痛くなってきた。

 おかしな人間たちが出会って騒いでわけわかんない展開になっている。


 今度はひなちゃんがミドリコをつかまえて質問責めを開始した。


「どうしてこっちに来たの、SF映画みたいな感じ?

 歴史を変えようとする悪者と闘ってるの?」

「それは明日の午前七時まで公開できない情報です」


 あ、自分たちの正体はペラペラ言っちゃうくせに、そこは秘密なんだ。

 でもそれなら始めから、ヒントみたいなことを言わないほうが良くない?


「えー、教えてくれたっていいじゃんー?」


 初対面のミドリコの手をとって、ブラブラゆすりながら甘えるひなちゃん。

 この人懐ひとなつっこさが彼女の強みだが、相手は血の通わぬロボットだ。ミドリコは例によって冷たい毒をはいた。


「わたくしは公開できない情報だとお伝えしました。

 アオイ、あなたはこちらの世界でも話を聞けないそそっかしい性格なのですね」


 ひなちゃんはムッと表情をかたくした。


「は? なんかアンタ感じわるくない?」

「お任せください」


 なぜか緑頭ロボは得意げだ。


「わたくしはいかなる状況下においてもあなたを侮蔑ぶべつし精神的苦痛を与えることができます。

 あなたがどのような発言に怒りをおぼえ、苦痛を感じるか、あらゆるデータがわたくしの中におさまっておりますのでどうぞご安心を」


 そんなの威張いばることじゃない。

 横で聞いている僕まで腹が立ってくる。

 直接言われたひなちゃんはさぞ……と思っていたら、予想に反して彼女は笑い出した。


「あっはははは、あなたおもしろーい!」

「そうでしょう。わたくしは本来あなたなどには一生手の届かない超高性能未来型お手伝いロボットなのです」

「あははは!」


 なぜかひなちゃんはミドリコを好意的に受け止めた。

 根っから明るいひなちゃんは、この毒舌どくぜつすらも冗談としてスルーしてしまったようだ。





 さてそれからもさほど中身のないにぎやかな会話が続いたわけだけれど。


 葵さん(年上のほうね)がどうも二人と別れたくなさそうな雰囲気ふんいきだったので、僕たちはズルズルと五人で行動した。

 大人だったなら一緒に夕食でも――と誘うところかもしれないけれど僕たち未成年はそこまでお金を持っていない。

 それに帰りが遅くなっては親の説教がうるさいという面もあって、僕たちはすぐ近くにある公園に寄り道をするのだった。


「わはー、こんなトコに公園なんてあったんだっけ?」


 葵さんはブランコをかこう鉄柵に飛び乗った。

 よっ、とかほっ、とか言いながら見事にバランスを維持している。

 僕にはちょっと出来そうもない身軽さだ。


「あー、あたしも中にはいるの初めてかもしんなーい」


 ひなちゃんも同じ柵にヒョイと飛び乗った。

 この人、というかこの人たち、と称するべきか。二人ともすごいな。

 月光の下でたわむれる二人の日向葵にみとれていると、横から視線を感じた。

 高遠さんが僕をにらんでいる。


「私にはあんなこと出来ませんから」


 いや、やれなんて言わないよ。あんなの誰にでもできることじゃないでしょ。

 ジャンプ力だけじゃなく体幹たいかんのバランスとかいうのもすぐれていなきゃできないはずだ。


「頭が軽い分、身も軽いのでしょう」

「ミドリコ、お前ね……」


 なんてこと言いやがるんだ、そう言おうとして振り向くと、ミドリコは二人の日向葵を指さしていた。


「このー年下のくせにナマイキな!」

「現役アスリートにかなうとおもうかぁ?」


 二人は鉄柵の上でプロレスみたいにつかみあい、たがいに相手を突き落とそうとしていた。


「何やってんだあ!?」


 さすがにやりすぎだ二人とも。

 僕は思うより先に駆け出していた。 

 あんじょう、二人は同時に体勢をくずして僕の上に降ってくる!


「ぐほあっ!」


 組み合いながら滑り落ちる二人の肩が、僕の薄い胸板むないたを直撃。

 非力な僕に女の子を二人も支え切れるはずがなく、僕はそのまま下敷したじきに。


「ひな!」


 りりあちゃんが上の二人に声をかける。


「大丈夫!? この男に変なところ触られなかった!?」


 心配するとこ、そこじゃないだろ!

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