第13話

 意識がほぼなかった。


 急に病状が悪化した。

 入院生活が始まってすぐ、もういつまで持つか分からないと言われてきた。

 だから私は覚悟していた。

 彼も…、覚悟してくれていた。今回は、ちゃんと伝えることが出来た。彼を信じて。

  

 ただ、もう少し持つと思っていた。


「血圧が低下しています。少し前から尿も出なくなっています。

 …かなり厳しい状態です」


 そうか、私はもうすぐ死ぬのか…。


 実感が湧いてこない。

 でも不安ではあった。


 目を開けると殺風景な病室が広がっているだけだ。

 聞こえてくるのは…、両親の泣き声とピッ、ピッ、という感情のない機械音

 だけだった。


 この機械音がピーーに変わった瞬間、私は死ぬ。もう二度と覚めない夢に落ちていく。

 その時までに彼は来てくれるのだろうか。


 さっきから何度も彼に連絡が行っているのに全然来ないのだ。

 怖くなっちゃったのかな…。


 お願い、来て―――。


 その時だった。

 病室のドアが勢いよく開いた。


 彼だ。

 彼が、彼が来てくれたのだ。


 暗い夜から抜け出せた感じがした。

 私の心に降っていた雨もやみ、虹が出ていた。


 私には分かった。

 目を開かなくても。


「心愛‼」


 初めて下の名前で呼ばれた。

 彼はベッドの脇に駆け寄る。


 もう、不安じゃない。もうこの世に未練なんてない。


「ごめん…、本当にごめん…。

 俺…、俺…、離れるって認められなくて…、怖くて…。


 君は俺の命の恩人だ。君のおかげで救われた。

 本当の幸せを手に入れられた。

 雲が全部晴れてなくなった。

 全部…、全部君のおかげなんだ!」


「そんな…こと…ないよ…。

 私の生まれてきた意味、一緒に…探してくれてありがとう…。

 結局見つからなかったけど…、それでも話してて楽しかったよ」


「そんなことない!

 君が救ってくれたから今の僕はいるんだ。だから…、俺のために生きていたんだ!」


 彼のため…か。

 それが私の存在意義。

 知れて良かった…。


「俺…、ちゃんと、良い別れにするから…。ずっとずっと…、忘れないから…。

 心はずっと一緒だから…。」


 ありがとう、ありがとう…。


 私は最期の力を振り絞って声を出した。


「ありがとう」

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同じ昨日と違う明日 白城香恋 @kako_00

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