第12話
それからの彼はこの上なく幸せそうな顔をしていた。
私はそんな彼とずっと一緒にいたかった。
でもそれはかなわないことは分かっていた。
初め…彼と出会ったときなら出来ていただろうけど、私にはもう時間がなくなってしまっていた。
いつ彼とお別れしなくてはいけないか分からなかった。
そのために色々と準備をしていた。
具体的に言うと…、彼との距離だ。
もちろん、距離を少しずつ置くのだった。
本当は、自分の最期のときまで一緒にいたかった。
でもそんなことしたら、彼を傷つけてしまうことは目に見えていた。
彼も、多分一緒にいてほしいって言ってくれると思う。
でもそんなことしたら後で辛くなるのは彼だから…。
気持ちの整理がついたら別れようって言うつもりだ。
今日は一人で図書館に来ていた。
今頃彼は何をしているのだろう。
友達と話しているのか、それとも中庭にでもいるのだろうか。
私は図書館の中を歩いていく。
本の匂いがなんだか懐かしく感じた。
―――彼と図書館に来ていたのはずっと前みたいに。
突然、眩しい”もの”が見えた。
それは見覚えがあった。
こちらを振り向いていた。
その人影、それは…、彼だった。
私は逃げようとした。
彼は追いかけてきてくれた。
多分、本当はそれを期待していたのだろう。
だから嬉しかった。
2人は見つめ合っていた。そして…、沈黙。
「俺の気持ち、勝手に決めつけんなよ。」
今までにないくらい力強かった。
まっすぐ見てくれた。
そうなのか…、また、彼に迎えに来てもらったのか…。
この行動は彼のためにやっていたつもりだった。
でも、逆だった。彼を待たせてしまっていたのだ。
彼はずっと待っていてくれた―――。
彼はそっと私を包み込んだ。
「最期まで、俺と一緒にいて。俺との約束だから」
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