第11話

 愛されていたから捨てた?どういうことだろう。


 捨てるなんていう行為に愛など存在しない。…少なくとも私が知る限りでは。


「詳しく…話して」

 彼は言った。


「お父さんが…病院で医療事故を起こしてクビになって、それで首になった理由が理由だからどこにも就職出来なくて…。

 それで生活が苦しくなって、でも貴方には満足にご飯も食べてほしいし、過度に節約してほしくなかった。自由に生きてほしかった。

 だから私はあのおばあさん…私のおばさんなんだけど…に頼んでそこに居合わせてもらって、拾ったみたいにしてもらったの。」


 じゃあ、本当に嫌いだったから捨てたんじゃないんだ。


 いい事実を知ったっていうのに彼の表情は暗いままだった。

 お母さんが嘘をついていると思ったのだろうか。


「なんで…、産まなきゃ良かったとか言ったの?」


 それか。

 確かに今の話には矛盾がある。


「貴方に幸せになってほしかったのよ」


 幸せ…?


「あのおばあさん、お金いっぱい持ってたから、貴方は幸せになれると思った。

 まさか死んじゃうなんて思ってもいなかった」


 私は何も言えなかった。

 彼も納得したみたいだ。


 けれど、一番肝心なことを聞けていない。


「これからは…、一緒に住んであげられるんですか」


 そんなこと部外者の私が言っていいのか分からなった。

 けれどそれを聞くことが今回の大きな目的だ。


 私達は答えを待った。

 しかし返ってこなかった。


 叶わないのか、その夢は。


 そう絶望しかけていると、彼が口を開いた。


「俺は、生活が不自由でもいい」


 あ、そういうことか。仕事が見つからなくてまだせいかつが不自由だから、彼にとって一緒に住むことは良くないと思ったのか。

 でもその考えは間違っていた。

 彼はどんな環境でも家族と一緒に住みたいだろう。


「本当に…?絶対に後悔しない?」


 お母さんは彼をまっすぐ見ていた。

 彼もお母さんをまっすぐ見ていた。


「うん」


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